弾む心 4 

 その日の晩は、急遽宴会となった。
 2組のカップルが、見事同時に成立したことのお祝いの宴である。
 ここ数日のゾロとウソップのあれこれの方はもちろん、ナミとロビンは、ルフィとサンジが互いに寄せる想いのことも知っていたので、あらそうやっとなの、と、あっさりしていたのだが。
 むしろチョッパーやフランキーが、目を落っことしそうになっていたのが面白かった。
 それよりナミが残念だったのは、ルフィ告白その他の大騒動を、直接見ることができなかったことだ。
 女部屋にロビンと一緒にこもっていたので、アクアリウムバーでの騒ぎは、さすがに届いてこなかったのである。
「あらナミったら、私と2人っきりより、そっちの方が良かったの?」
 つまんないと零すナミのあごを、ロビンの長い指がひょいとすくいあげた。
「ええっ!?や、やだロビンったら。そんな訳ないじゃない。」
 顔を近づけられて一瞬赤くなったナミだったが、すぐに立て直して、ロビンの腕にしがみつく。
「ロビンったら、拗ねないでよー。」
「拗ねてなんかないわ。」
 ロビンはちょっとそっぽを向いて見せたが、すぐに真剣な顔をして、ナミの目を覗きこんできた。
「ねえ、それより、どうするべきなのかしら。」
「何が?」
「私達のこと……、ルフィの許可、いるの?」
「あー……。」
 ナミはロビンの戸惑いを理解して、眉を寄せた。
 船内恋愛について、ウソップがルフィの許可を取ろうとしたというアレ、ロビンはそのことを心配しているのだろう。
 ここはそういうことをあれこれ云う船ではないと思うし、そもそも何でウソップがそんなことを気にしたのかはナミには判らないが、彼は最近、良く判らない船長の立て方をすることがあるので、その一環なのかもしれない。
 それはともかく、今後のことも考えると、自分達のこともさっさと打ち明けておいた方が楽だろう。
 どうせ今後、あんまり人眼をはばからなくなるだろう男共にばかり、好きにいちゃつかせておくつもりもないのだ。
 とゆーか、ナミだってロビンのことを、自分の恋人だと自慢したい。
 今までロビンは、あまり他の人に知られたくなさそうだったのでナミも遠慮していたのだが、打ち明けてもいい気分になっているようだし、この期を逃す手はない筈だ。
「そうね。取っておいた方がいいかもね。」
 行きましょ、と手を差し出すと、ロビンは素直にその手を握った。
「あ、ナミさん、ロビンちゃん、おつまみ足りてますか、何かもっと作ろうかー。」
 ルフィの方に近寄って行くと、サンジが目敏く声をかけてくる。
 嬉しそうにルフィに寄り添い、いつもより随分と酒を飲んでいるようだが、それでもやはり女への態度は変わらない様子だ。
「いいわ。それよりルフィ、話があるの。」
「何だ、ナミ。」
「待って、……ちょっと、ゾロとウソップ、どっかにしけこむ前に私達の話も聞いて。」
「しけこまねえー!!」
 マストの下のベンチで仲良くしている2人に声をかけると、真っ赤になったウソップがナミに怒鳴り、ゾロに何かささやかれて真っ赤になって暴れている。
「さっさと来なさい!……チョッパーとフランキーもこっち来て。」
「ったく、何だよ。」
 ぶつくさ云いながらも、船で一番の実力者のナミに逆らう男などいる筈もなく、しぶしぶと寄って来た。
 各自芝生に座り直したところで、ナミはこほんと咳をする。
「えーとね、まずは、ルフィとサンジくん、それから、ゾロとウソップも。おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
 ナミがちょっと頭を下げると、ウソップもつられて深々とお辞儀をした。
「おめでとう。」
「おお、サンキュー、ナミ、ロビン。」
 ロビンもナミに合わせてお祝いを云い、ルフィは爛漫な笑顔で笑っている。
 ゾロはどうでも良さそうにそっぽを向くがちょっと耳が赤くて、サンジは嬉しいけれどもレディに云われてどうすればいいのかと、真っ赤になってうろたえていた。
「それでね。」
 さて、ここからが本題だ。ナミはロビンと目を見交わし、2人の体の間でこっそりつないだままだった手を、皆に見えるように持ち上げた。
「事後報告になっちゃって悪いけど。私とロビン、ちょっと前から付き合ってたの。よろしく。」
「そうなのか。」
 ナミの宣言に、ルフィはあっさりと答えた。
 ナミとロビンを見比べて、ルフィは視線をロビンに固定する。
「幸せか?」
「……ええ、とても。」
「ならいいぞ。おめでとう。」
 ルフィとウソップが散々繰り返したように、ルフィはロビンとナミにも、同じ言葉を告げる。
「ありがとう。」
「ありがとね、ルフィ。」
 ほっとしたように微笑みを交わすナミとロビンに合わせて、ルフィは満面の笑みを浮かべた。
「よーし、皆、ナミとロビンのために乾杯だ!…………って、どうした?」
 コップを掲げるルフィに合わせる声がないので、どうしたのかと見れば、他の男共は全員、目がまんまるなままだった。
 どうやら余程びっくりしたらしい。
 フランキーとチョッパーは立て続けで気の毒と思わないこともないが、ゾロとウソップにはちょっとむかつく。
 そして、ナミと目が合ったサンジは、ぐるぐると巻いた眉毛を突然へにょんと落とした。
「ひどいよー、ナミさん、ロビンちゃんー……。」
「……サンジ君、いやなの?」
「だって、おれと云うものがありながら……、そりゃあナミさんもロビンちゃんも最高のレディだけど、でもそんな、レディ同士でだなんてもったいない……。」
「そこかよ!」
 よよと泣き崩れるサンジに、ナミは反射的に突っ込んだ。
 酔いが回っているのか、幾分口の回らない様子のサンジは、それでも尚ぐだぐだと呟いている。
「ナミさんがロビンちゃんを抱きしめたりしてたら、それはもう天国のように美しいとは思うけど、おれ、その間に挟まりたい……。」
「挟まるな!」
「だってー。ナミさんー。」
「ねえ、だったら。」
 そこにふと、ロビンが口を挟んだ。
「そんなにナミちゃんがいいんなら、ナミちゃんとルフィ、交換してあげましょうか?」
「……え?」
 くすりと、ちょっと意地悪そうに微笑んだロビンの言葉に、サンジは虚をつかれた子供っぽい表情になる。
 それから、泣きそうな表情になるもので、ナミもついロビンを咎める前に、便乗したい気分になってしまった。
「ねえ、ルフィ。どう?」
「駄目ですッ!」
 ルフィの胸からロビンの腕が咲き、頬をつつこうとするのを見て、サンジは半泣きでルフィに飛びついた。
「あはは、サンジくんかわいー。」
 ナミはけらけらと笑い出す
 酒も回り、想いが叶ってすっかり箍が外れているのか、あからさまなサンジの言動が面白くてたまらなかった。
「ルフィはおれのです、ナミさんにだってあげられませんー。」
「よしよし。サンジ、ずいぶん酔ってんだろ。」
 今まで鷹揚に笑って見ていたルフィは、抱きついてきた体を、ゴムの腕でぐるぐる巻きにした。
「おまえら、あんまりサンジ苛めるなよ。」
「だって、これは私のなんだもの。挟まりたいとか云うからよ。」
 その途端、ナミの体からロビンの腕がごっそりと生えた。
 ぎょっとしたナミの体は、無数のロビンの腕に抱きしめられる。
 私の、と云われたことは嬉しいが、しかしそれより苦しいし、見た目的に怖い。
 それはサンジの方も同じことで、じたばたともがいている。
「サンジはもうおれのだし。本気じゃねえんだから。」
「嫌よ。ちゃんと捕まえておいてちょうだい。」
「ああ、判ってる。」
 ルフィの腕の拘束が何巻きか増え、ナミに生えた腕の数も更に増えた。
 しかしルフィもロビンも、涼しい顔をしているのが怖い。
 そして、いつのまにか大人しくなっていたサンジは、苦しそうにしながらも、どことなく嬉しそうに見えた。
 もしかしたらナミの方も、傍目から見たら、喜んでいるように見えてしまっているのかもしれない。
 それもこれも、ある意味、恋人からの激しい抱擁と云えないこともないので。
 ナミは苦笑しながら、ロビンにされるがままでいたのだった。


 その、ちょっと離れたところでは。
「ううううう、能力者の愛って怖い……。」
 ウソップがぶるぶると震えながら、自分の恋人に抱きしめられていた。
 ゾロの腕は2本しかなく、伸びることもないので、安心して身を任せていたのだった。
 
2008/10/19 




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