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「でも、サンジはもっと好きなんだ。」 しかし続く言葉に、2人そろって目を丸くする。 「あー、何だ、その、ルフィ……、サンジって、マジで?」 ウソップは躊躇いながらもルフィに聞いた。 この場合のこの態度、つまりはそういう意味だととってもいいのだろうけれども。
「わりぃ。おれ、ウソップがゾロと恋人同士になったら、ウソップはゾロにばっかりべったりになっちまうのかなあって思って、おれはサンジのことが好きなのに、それってやだなあって思っちまって……、なあウソップ。おれって、浮気者なのかなあ……。」 ルフィは自分の片膝を抱いてうつむき、落ち込んでいる雰囲気だった。 「……ルフィ……。」 彼らしくもない様子に、ウソップは胸が痛くなる。 ウソップは思わず、ルフィの額をぐいと押し上げ、強引に顔を上げさせていた。
「何云ってんだよルフィ、たとえ恋人ができたって、おれとおまえはいつまでも親友だ!おれ達の仲に何の変わりもあるもんか。」 「ウソップ…!」 ルフィが目を大きくする。 気持ちが盛り上がり、新たに友情の確認をしたウソップとルフィは、互いにがばと抱き合っていた。
「そうだな、おれ達は一生親友だ!」 「おう、その通りだルフィ。……でも、お前がサンジのこと好きだなんて、全く気付かなかったぜ。」 激しく盛り上がりつつも、ウソップは先程の驚きを改めて取り戻す。 「黙ってて、わりぃ……。」 「いいよ、云いにくかったんだろ。よりによって相手が女好きのサンジじゃな……。でも、辛い時は云えよな。胸くらいは貸してやる。」 「ありがとな、ウソップ……。」 今まで懸命に隠してきたのであろう恋心を、ようやくのように吐露するルフィに、ウソップも真剣だ。 そのままぼそぼそと語り合っている親友同士のすぐ側では、ゾロが自分とウソップの話はどこに行ってしまったんだと、怒りを懸命に堪えていたが、あまり隠せてはいなかった。 その時だ。 「――ルフィ、てめえ、何ひとの話してやがる。」 がしっときつく床を蹴る音がして、いつもより更に低い声がした。 サンジだった。 「……サンジ…っ。」 「うわっ。」 青くなって、ルフィとウソップが飛び離れる。 2人もゾロも、自分のことに必死になっていたので、いつの間にやらサンジが来ていたことに、気付いていなかったのだ。
「サンジ、おれ…。」 どこまで聞かれていたのかと、ルフィはこわばった顔でサンジを見上げた。 ウソップはルフィの足首のあたりにつかまって、ぶるぶると震えている。 そういえばここはアクアリウムで、キッチンはそのすぐ上だ。 大声を出せば届く距離だし、リフトの穴を通じて、ルフィ達の会話が届いていたのかもしれない。 「ウソップになんか相談してんじゃねぇよ。」 苛立たしげな声とともにサンジの脚が高々とあがり、ルフィもウソップも、衝撃を予期して肩をすくめた。
「そういうことは、おれに直接云え!」 しかし、怒鳴り声と共に下りてきたサンジの脚は、ごく軽く、ルフィを揺らしただけだった。 「サンジ……?」 「何だよ。」 サンジは手のひらで顔を隠すようにしながら、煙草をくわえて火をつける。 しかしそれでも、白い煙と手のひらの隙間から、隠しようもなく真っ赤になっている肌が見え隠れしていて。 これは、と、ウソップは思った。 しかし思わずルフィを振り返ると、そのルフィ本人は、対して痛くもなかっただろう頭を抱え込んでしまっている。 「ごめんな、サンジ。忘れてくれ。」 ルフィは麦わら帽子を目深にかぶって、立ち上がろうとした。 「え、おい、ルフィっ。」 サンジはあからさまに動揺しているが、ルフィはそちらに視線を向けようとしないから、全く何も伝わっていない。 「待てよルフィ!」 大親友の恋の行方の危機だと、ウソップは大慌てでルフィの脚を取り押さえた。 ゴムの脚はぐにゃと伸びるが、つんのめったようにルフィは腰を落としてしまう。 「何だよウソップ!」 「いいから!」 ウソップはルフィの頭をつかんで引っぱり、サンジの方へと押しつけた。 首が伸びて不気味ではあるが、いつものことである。 それでようやくルフィは、真っ赤になっているサンジの顔を見ることができた。 「……サンジ?」 「謝ってんじゃねぇよ、馬鹿。……嫌だったら聞かなかったふりしとくだろ。」 「サンジ!それって!」 ルフィの顔が、ぱあっと輝いた。 「サンジ、サンジ!」 ルフィはサンジの腕をつかんで、わさわさと揺する。 サンジは煙草を消すと、ようやくルフィに視線を合わせた。
「おれに直接云え、って云ったろ。」 「サンジが好きだ!」 照れの混じったサンジの言葉に、ルフィは間髪入れずに返す。 あまりの率直さに、サンジはまたうつむいてしまったが。
「……おれもだ、ルフィ。」 小さいけれどはっきりとした声は、息を飲んで聞いていたウソップの耳にも、はっきりと届いた。 「サンジ……。」 ルフィは胸を押さえて、感激の表情だ。 それからぱっと、ルフィはウソップを振り返った。 ウソップは声も出ないほどの感激を、両腕を高く上げての万歳三唱で表現してくれていた。 「やったぞ、ウソップー!」 「やったな、ルフィ!」 ゴムの手を伸ばして飛んでくるルフィと、上げていた手をそちらへ向けたウソップは、満面の笑みで抱きつき合った。 「すごいぜルフィ、おめでとう!」
「ありがとうウソップ、おれすげえ嬉しい!」 ルフィとウソップは、そのままぴょこたかと跳ねて、全身で喜びを表現し合っている。 「信じられねぇけど、良かったな!ルフィ、サンジと幸せになれよな!」 「おう、ウソップもゾロと仲良くな!」
ルフィもウソップも、互いに互いの恋の成立を喜び、応援し合っていた。 人の幸せを素直に願える、親友同士の美しい構図である。 が。
「だからルフィ、てめえ、おれに直接云えっつってんだろうが!」
「いい加減にしやがれウソップ、何でおれ達の話がルフィとクソコックの話になってんだよ!」 サンジとゾロにとっては、何で自分とではなくルフィとウソップが抱き合っているのかと、そちらの方が大重要問題である。 仲睦まじい2人への嫉妬に耐えるのも、もう限界だ。 「「さっさと離れろ!」」 同時に叫んで、サンジとゾロはルフィとウソップをそれぞれ引きはがそうとする。 しかし、ひしと抱き合ったままの2人は、何度も互いへのおめでとうとありがとうを繰り返し、一向に離れようとはしないのだった。
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2008/10/17 |
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