愛される方法 1 

 ゾロの唇ばかりが気にかかる。
 キスがしたいと、ウソップは思ったけれど、それは求めるべきではないことだ。
 既に体は重ねているのに、唇を合わせたことはない。それは、ウソップとゾロの関係が、あくまでも性処理にすぎないからだった。
 ふれてはいけないゾロの唇の代わりに、ウソップは、自分の唇を撫でる。
 分厚い唇と大きい口は、良く動いてたくさん喋って、それなりに自分でも気に入っているけれども。
 ゾロの薄くて引き締まった唇は、どんな感触なのだろうか。
 キスをするのは恋人の証。体を許しても、唇は許さないという良く聞くそれが、本当なのか嘘なのか、ウソップには良く判らないけれども。
 ゾロに教えられ、求められるまま、ウソップは応じてきた。
 いつだってゾロは優しくしてくれたし、ウソップのことも満足させてくれた。
 ウソップもゾロとの性処理を楽しんでいたし、二人の関係に納得していたのだ。

 だから。
 それ以上を求めてしまうのが、反則だとは判っている。
 何も約束はしていないけれど、でもやっぱり、約束違反のような気がする。
 体を求めるならば、ゾロも応えてくれるだろう。
 けれど、心を求めてしまうのは、いけないことだ。
 キスをしたいと思ってしまうのは、ウソップのそんな心の現れ。
 ゾロの誘いに応じるべきではなかったと、今更ながらに、ウソップは深い後悔に捕らわれていた。


 

「抜き合わねぇか。」
 ゾロにそう誘われたのは、そんなに前のことではない。前甲板で夜風に吹かれて涼んでいたウソップのところにゾロがきて、何でこんなにくっついて座るんだろうと思っていたら、突然そんなことを持ち掛けてきたのだ。
「え、なっ、何を…っ。」
「いいじゃねえか。」
 とにかくひたすらびっくりしてのけ反るウソップに、ゾロは体を押しつけるようにして迫ってきた。
 それと同時に、素早く伸びてきた手に股間を撫でられ、ウソップは真っ赤になって脚を閉じる。
 しかしゾロは手を離さなかったので、却って挟み込む形になってしまった。
「お前にもしてやるから。」
「いや、ちょっとゾロくん、そんなことはダメです…っ。」
「どうして。お前はたまってないのか?」
「やっ、ちょ……んんっ。」
 ゾロは服越しに、もぞもぞと指を動かしてくる。
 ウソップは思わず声をあげてしまった。
 気持ちいいというより、困惑と狼狽が強いが、そこからぞわぞわとした感覚が広がってきてもしまう。
 ゾロの手を脚に挟みっぱなしなのも悪いのだろうが、かといって解放してしまうと、もっと何かされてしまいそうで、腿の力を緩めるに緩められない。
「いいじゃねえか。な?お前も良くしてやるから。」
 ゾロはますますウソップに体を寄せ、もう一方の腕でがっしりと肩を抱き込んでくる。
「待てって、ゾロ……、んんっ。」
「ほら勃ってきた。」
「云うなああっ。」
 正直なところ、ウソップはまだ未経験だった。
 他人にふれられるなど、これが初めての体験だ。
 機会がなかった訳でも、娼館に興味がなかった訳でもないが、何となく尻ごみしてしまい、ウソップはまだ行ったことがなかったのだ。
 上陸の時に何度か、ナミが多めに小遣いをくれたことがあったのは、多分そういうところで発散してこいということだったのだろうとは思う。けれども多分ルフィがその金を肉に使っていただろうのと同様、ウソップも自分のための小道具を買うのに費やしてしまっていた。
 その方が楽しかったし、まだそこまで切羽詰まるような衝動のなかったウソップには、自慰で充分発散できていたからだ。
「やだ、おれ、こーゆーの判んないからっ、……したことないから、勘弁…っ。」
「そうか。ならおれに任せておけ。」
「違うーっ!」
 ゾロはウソップの言葉を、自分にいいようにしか聞いていないらしい。
 ……いや、多分、本当は違う。
 本気でウソップが嫌がって、真剣に抵抗をしたならば、すぐに引いてくれただろう。無理矢理にどうにかしようとするのではなく、一応はちゃんと同意を求めてくれているのだ。
 だからゾロは、ウソップの恥じらいの奥の好奇心を見取って、それで強引に押してきているのだろう。
 怖いけれど、興味がある。
 けれど自分からしたいとは云えない。
 娼館だって、ゾロやサンジが強引に連れてってくれれば経験できていたのだろうが、そんな機会はないままで。
 しかし今は、どうせ誘ってくれるのならば、そっちの方が良かったなあなどと考えている場合ではなく。
 ぐだぐだと躊躇いまくっている間に、ゾロの手は緩んだ脚の間から抜け出し、ウソップのジッパーを引き下ろした。
 成長しかけていたそこが幾分つっかえたように擦られ、ウソップは悲鳴じみた声を上げてしまう。
「ゾロっ!」
「これ以上でかくなると、出しにくいだろ。」
 しかしゾロは楽しそうな表情で、開いたそこに指を入れ、ウソップのものを取り出してしまった。
「あ、……、や、やだ。」
「黙って目ぇ閉じてろ。」
 ゾロはウソップのものを握り込み、そのままゆっくりと扱き始める。
 目を閉じろと云われても、ウソップはそこから目が離せず、視線が釘づけだ。
 ゾロの大きな手の中で、自分のものが擦られ、膨張していく。
 夜だからそれほどはっきりと見える訳でもないが、今夜は満月、キッチンや女部屋の窓から洩れる明かりも微かに届き、決して真っ暗ではないのだ。
「んんっ、……や…、ゾロ……。」
 隠しようもなく高まって行く快感に、ウソップは全身を震わせ、息を乱した。
「やじゃねえだろ。」
 ゾロは更にウソップの肩を引き寄せ、扱く手を緩めて、今度は指でそれを撫で始めた。
 浮き出た形を指の腹でなぞり、浮かんできた透明な雫をくるくると塗り広げる。
「駄目…だ、ゾロっ。」
「どこが好きだ。」
 張り出した部分や、その少し下のくびれ、裏側を撫で下ろした指は、ウソップのものの根元をくるりとなぞって、また先端へと戻ってくる。
 軽く握られ、親指で先端を弄られると、我慢できずに腰が揺れた。
 ずっと目が反らせないままだから、次にゾロがどこにふれるかは判る筈なのに、予想しきれない快感の強さに勝手に体が動いてしまう。
「く…っ、は…んん。」
 零れる蜜の量が増し、小さな濡れた音が聞こえた。
 羞恥にほてった耳に届く音が、ぞくりとした震えを呼ぶ。
 心臓の鼓動が痛いほど高鳴り、ウソップは揺れる腰を自制できず、ゾロの手に擦りつけた。
 そんなにゆっくりじゃなくて、もっと強く扱いて欲しい。
 しかしゾロの手は、ウソップの望みとは裏腹に、突然そこから離れてしまった。
 
2008/10/27 




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