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唇がふれた瞬間、ゾロの肩がびくりと揺れた。 ウソップが夢にまで見たゾロとのキス。 どんな感触なのだろうと何度も想像しながらも、自分がそれを知ることなどないと思っていた。 けれど、そっと重なっただけの唇は、すぐにぱっと離れてしまう。 ふわりと一瞬重なっただけでは、唇のくすぐったさに胸を高鳴らせただけで、感触を確かめる間もなかった。 ……期待に添わなかったのだろうか。 ゾロに好きと云われて、嬉しかった。 突然のことすぎて、呆然としながらもすっかり舞い上がっていた。 諦めなくていいのだと、胸が熱くなった。 ゾロは何だかものすごいような感じのことをあれこれと云っていたが、好きだと云われるたびに、それ以外の思考が脳から飛んだ。 けれどキスがあまりにも一瞬過ぎたから、ウソップは不安になって、悲しくなってしまう。 それまで歓喜に高ぶっていた心臓が、ふっと冷たくなった。 涙が出そうで、ゾロを見るのが怖くて、ウソップは目を開けられずにそのままぎゅっと閉じる。 いつのまにか引いていたらしい顎が、ゾロに指にぐいと持ち上げられた。 見なくても感じる、ゾロの視線がいたたまれない。 ゾロの指を、下唇に感じた。 右に左にゆっくり撫でて、ところどころをふにふにと押される。 それはくすぐったいくらいにそっとのふれ方で、ゾロは人差し指でウソップのあごを固定し、親指でそろそろと、唇を撫でているようだ。 ウソップが恐る恐る目を開けると、熱っぽい眼差しをしたゾロの顔が間近にあった。 「唇、やわらかいんだな。」 ゾロは照れたようにささやいて、ふんわりと笑う。 「びっくりした。」 もう一度、ゾロの顔が近付いてきたので、ウソップは慌ててまた目を閉じた。 今度は一瞬ではないキスが、ウソップの唇を覆った。 重なった唇が、そっと押しつけられる。 ウソップの唇の感触を確かめるかのように、ゾロは何度も小さく顔を揺らす。 そのたびに重なる位置が微かにずれ、押し付けられる強さに変化ができて、ウソップは心臓を高鳴らせた。 ゾロがそうやって、ウソップとのキスを充分に味わおうとしているのが判る。 先刻の一瞬のキスが、気に入らなかったのではないと判ったから、ウソップはとても嬉しくなった。 ウソップの唇がやわらかくて、本当に驚いただけなのだろう。 こんなたらこ唇だけれど、ゾロが気に入ってくれたなら嬉しい。 ゾロは強弱をつけてウソップに口を押し付け、そのまま小さく首を振って接触面に変化をつけてくる。 ゾロの唇も、やわらかい。 ウソップのとは全然違う、引き締まった薄い唇なのに。何でこんなにやわらかいんだろう。ゾロの体はどこもかしこも固いと思っていたけれど、唇だけはとてもやわらかい。 薄いゾロの唇でさえこんなにやわらかいのだから、ウソップの唇だったら、きっともっとなのだろう。気持ち良いと思ってくれているのなら嬉しい。 熱心に続くキスに、ゾロからの愛着を感じて、泣きたいくらい嬉しい。 ゾロも、ウソップを……と思うと、胸が高鳴りすぎて痛いくらいだ。 自分もゾロに、好きだと伝えたいけれど、口を塞がれっぱなしで言葉が告げない。 もっとキスを続けて欲しいと、そんなウソップの望みが聞こえた訳ではないのだろうけれど、弾力を確かめるかのように、ゾロのキスは少しずつ変化をつけながら、熱心に続いた。 少し荒れた唇はお互い様だが、僅かにひっかかるような感触が、ウソップの熱を増す。 ゾロの口が少しずれ、ウソップの上唇を挟みこまれた。 唇を左右に動かすようにして、ゾロの口がウソップの唇を揉む。 「ん…っ。」 背筋にぞくぞくとした震えが走り、ウソップは小さく声を立ててしまった。 キスだけなのに、気持ち良くてたまらない。 背筋を駆ける震えが、むずむずとした渦を巻く。 上唇の次には下唇が、ゾロの唇に挟まれ、そっと擦られた。 ゾロの腕がウソップの首の下に入ってきて、反対側の肩を掴み、しっかりと抱かれる。 あごを支えていた筈の手も、いつのまにかウソップの髪を撫でていて、幸せな陶酔を呼ぶ。 ウソップもそっと、ゾロの背に腕を伸ばした。 服越しにもはっきりと判る、筋肉のついたたくましい背中。傷は剣士の端だと云う広い背中は、けれど普段は気軽に、叩いたり負ぶさったりもしている。 その頼もしさを、改めて思い知る。 「…ん、ふ…っ。」 ゾロはウソップの下唇を唇に挟んだまま、突然ぺろりとそこを舐めた。 ウソップは思わず身じろいでしまったが、ゾロの腕に強く引き戻されて、更に舐められる。 左から右までねっとりと舐められ、軽く含まれて、吸いこまれる。くちゅと音を立ててねぶられて、ウソップは震えが止まらなくなった。 上がった息が苦しかったが、ゾロの口がウソップから離れる気配は一向にない。 それどころか上唇も同じようにして、更に、口の中へとゾロの舌が入ってきた。 唇の裏側を舌になぞられ、閉じた歯をつつかれて、ゾロのウソップはおずおずと侵入を許す。 遠慮なく伸びてきたゾロの舌に、口内を余すところなく舐め回され、ウソップの舌までもがゾロに絡め取られてしまった。 上から流れ込んでくるゾロの唾液が、ウソップのそれと混じり合う。 躊躇いよりも、仰向けで口を開いたままなのに苦労したが、零したくなくて何とかそれを飲み込んだ。 「…んぐ。」 ウソップを抱いていたゾロの腕に強い力がこもり、ウソップは小さくうめく。 重なった口内では、舌が絡まっては外れ、擦り付け合っては、またぬめりのせいで外れるという動作を、何度も何度もくり返していた。 舌が擦れるたびに、下半身まで直接響くような快感が込み上げる。 ゾロの舌は力強くウソップの舌を絡め取り、しびれそうなほど強く吸いこまれたりもするのだ。 ウソップは何度も、ゾロとのキスを、そして彼の唇の感触を想像していた。 けれどそれどころではなく、今はこんなに密接に、ゾロの舌まで味わっている。 指で自分の唇を撫でていたのとは全然違う。そもそも舌の感触なんてものまでは、ウソップは想像していなかった。 幸せそうな、愛情のこもっていそうな行為と思い、ゾロとのキスを夢見ていたけれど、こんなに気持ちいい、官能的なキスなんて、ウソップの想像の範疇外だ。 全身が熱くなって、腰がうずく。 ゾロのキスに感じて、ウソップのものがいやらしく勃ちあがってきてしまう。 羞恥にウソップは身を捩って逃げようとしたが、ゾロはますますウソップを抱きすくめ、散らばった髪をしっかりと掴み留めて、口腔深くまでを貪ってきた。
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2008/11/04 |
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