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「離せよ、何すんだよゾロ!」 ぎゃーぎゃーとわめき散らすウソップを、ゾロは肩に乗せ上げる。 ばたばたしている脚をしっかりと抱きしめると、ウソップは今度はゾロの背中を叩きまくるが、そんなことすらも嬉しいと思ってしまうのは現金か。 「どこ行くんだこら、下ろせ下ろせ馬鹿っ!」 しかしやはり急を要しているので、ゾロはさっさと、地下のウソップ工場へと向かった。 「いでっ。」 途中でどかっと大きな音がして、ウソップがぐったりと大人しくなる。どうやらどこかに頭でもぶつけたのだろう。 静かになったウソップを運び込み、作業台の上にそっと下ろした。 「……何だよゾロ。んな、こえーツラしやがって……。」 ウソップは大きなため息をつくと、拗ねた様子でゾロから視線を背け、ぶつけたらしい頭を撫でていた。 「だ、だから、何…。」 ゾロはウソップからバンダナとゴーグルを外し、頭を撫でてやる。 少し膨れた感触と、癖の強いコシのある髪を手に感じ、ゾロは何だかほっとしたような気分になった。 厚い唇を尖らせて、ウソップはもうひとつため息を吐くと、きっとゾロをにらんでくる。 「用があるならさっさと云えよ!……し、しばらく、距離置きたいってちゃんと云ったろ。構わないでくれよ!」 泣きそうな顔で叫ぶウソップを見て、やはり一刻を争う事態だったのだとゾロは改めて思った。 「ウソップ。」 「な、何だよっ、……そんな顔しても怖くねーぞ、……いや、すいません、怖いです。睨まないでください。」 ウソップは何やらぐだぐだ云っているが、構わずに腕をつかんで引き寄せた。 「好きだ。」 「………………はい?」 ウソップはぱかーんと口を開けたまま、固まった。
「お前が好きだ。だから、おれを好きなのをやめるな。続けろ。」 ゾロはウソップを更に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。 まだ薄い体は、ゾロの胸に収めるのにちょうどいい。 ウソップの体温がゾロに伝わってきて、何だか嬉しくなってくる。 更にしっかりと抱き込み、もう一度ウソップの髪を撫でた。 「…やっ。」 すると突然、ウソップの肩が揺れ、小さな声がした。 ゾロは今の反応が何だったのか判らなくて、試しにもう一度、今と同じようにもう一度ウソップを撫でてみた。 指先が首の後ろあたりを掠めると、ウソップがまた、身を震わせる。 くっついている胸から、ウソップの鼓動が激しくなって伝わってくるのに気付いた。 そうか、と思い、ますますゾロは嬉しくなる。 多分ウソップは、首にふれられて感じたのだ。 今までのウソップとのあれこれは、性処理だと思っていたから、必要そうなところしか互いにふれていなかった。 けれどゾロの腕はウソップの感触を覚えてもいて、そう云えば自分は、ウソップの肩を引きよせたり背中を撫でたりは今までも良くしていたと思う。 元々最初から、ゾロはウソップをさわるのが好きだったのかもしれない。 それならば、これからは恋人同士としてやるのだから、もっと色々なところにさわってもいいのではないだろうか。 いや、まだ、恋人にはなっていないのだが、その地位はこれから全力で手に入れてみせる。 「ゾロぉ……。」 ウソップはゾロの腕の中で、恥ずかしそうに身じろいだ。 「逃がさねぇよ。」 抱きしめる腕に力を入れると、ウソップはゾロの胸にちょっとだけもたれてくる。 頬を染めてもじついているウソップを見ていると、ゾロは、さわるだけじゃなくて舐めてもみたいという気分になってきた。 ウソップはもじもじしながら、頭を小さく揺らして、長い鼻の先でゾロの肩をつんつんとつついている。 可愛いと、思った。 胸の奥がほんわりと暖かくなるような感覚は、今までにも覚えがある。 ただゾロは、それを言葉にして意識しようとはしなかった。 ウソップが側にいる時、ゾロはよく、こんなふうな暖かい、ほっとするような心地になった。 一緒にいることを、気に入っていた。 これからもずっと、近くにいたいとゾロは思う。 けれどそれは、ウソップを守りたいというのではない。 ゾロは多分最初の最初から、ウソップの力を認めている。 だからただ、きっと。 守りたいのではなくて、ゾロはウソップを可愛がりたいだけだ。 そうしていると、ゾロが嬉しいから。 「うわっ。」 少しもったいなかったが、ゾロはウソップを引き離して、作業台の上に押し倒した。 ゾロにのしかかられたウソップは、驚きと不安の混ざった顔で、ゾロを見上げてくる。
「あ、あの……ゾロ、おれ……。」
「やってるうちに、おれに惚れてきたって云ったよな。」 「え!? あ、……いや、その、あの。」 ゾロが口で勝てる筈はないから、言葉を遮って確認を取ると、ウソップはたちまちにうろたえ始める。 この様子からすると、やはり、離れていた数日の間に、その気持ちが薄れてきてしまっているのか。 やはり急いで取り戻さねばならない。 「今からやるぞ、ウソップ。」 「えええええっ、ちょ、ちょっと待ちたまえゾロくんっ。」
「待たねえ。お前がおれに惚れるまで、いくらでもやる。逃がさねえって云ったろ。覚悟しとけ。」 ゾロの力でウソップを押さえつければ、逃げることはできない。 ここまで来たらゾロも必死だ。 今ウソップを離してしまったら、取り返しのつかないことになりそうな気がする。 「好きだ、ウソップ。……抱かせろ。」 顔を寄せて低くささやくと、ウソップの体から力が抜けた。 ゾロは目を見ようとして、額にかかった黒髪を撫でつけてやるが、ウソップは真っ赤になったままで顔を横に向けてしまう。 鼻を避けて少し頭を引いたゾロに目に、困ったように噛みしめられているウソップの唇が映った。 肌より僅かに赤い色の、分厚いそこが気にかかる。 良く喋り良く動く唇には、筋肉はついたりするのだろうか。 口から先に生まれてきたと、本人も豪語するウソップの唇。 ウソップの声も言葉も、ゾロにはとても好ましい。 ゾロはウソップの頭をつかんで、顔の向きを元に戻させた。 長い鼻を避け、充分に顔を傾けながら、ゾロはウソップに顔を近づけていく。 一瞬大きく見開かれた瞳が、戸惑う様子を見せてから、ゆっくり閉じた。 きっと、了承の印だ。 ゾロはそっと、ウソップに口づけた。 ウソップの唇は、びっくりするほどやわらかかった。
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2008/11/02 |
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