After school
犁香:作

■ 第三話

頭がボーっとしていた。何もしたくない、此処にもいたくない。
「あの、先生。やっぱりあたし家に帰ります。」
「じゃあおくっていくよ。」
「いえ、一人で大丈夫です。」
「そうか? じゃ、気をつけてな。」

凛音は一人夜の街を歩いていた。
これからどこに向かうのかもわからない……なんの目的もないままで、ただ歩いていた。
泣き出したい気持ちでいっぱいになった。
「あれぇ? 凛音じゃん?? おい! いい相手がいたぜ!」
(いつも京子先輩が連れて来る人だ)
「暇ならさ、俺達の相手してよ。連れがどうしても凛音とヤりたいっていうからさ……。」
相手は一人ではなかった。二人の友人を連れてナンパでもしていたのだろう。
(いや……皆あたしの体ばかり見てる……。)
「噂には聞いてたけど、やっぱすげぇな……ワクワクしてきた。」
「ね、いいでしょ?もし断ったりしたら奈緒子にチクるぜ。」
「それだけはやめて!わかったから……それだけは……」

連れて来られたのは近くのラブホテル。三人の男達が裸で凛音を囲んでいる。
「じゃあ脱いでもらおうか。ヒヒヒっ!」
凛音は静かに制服のブラウスに手をかける。
一つずつボタンを外していくとブラジャーに包まれた大きな胸が顔を覗かせた。
ブラのホックに手をかけると弾けるようにして乳房が飛び出してきた。
「凛音はどんな風にされるのが好きなんだっけ?」
いつもの台詞に教えられた通りに答えればいいだけのはずなのに、今日は言葉が出てこない。
「ホラ、言ってみろよ!」
「あ……」
言葉の代わりに涙がこぼれた。どうして涙が出てくるのか自分でもわからなかった。

「あ、あたしは乳首を舐め舐めされるのが……大好きです。」
待ってましたとばかりに一人の男が凛音の乳首にしゃぶりつく。
「んっ……!」
声をあげたくはなかった。感じていると自ら主張するのがたまらなく嫌だった。
「どうした……感じてるんじゃねぇのか!?」
「嫌……」
呟かれた一言に男達は耳を疑った。
「嫌!離して!!」
あまりの出来事に男達は止めることも忘れ、凛音を手放してしまった。
「おい、今の聞いたか?」
「………露出狂の気でもあるのか?」
「いたって普通の子だけど……」
「とりあえず奈緒子には黙っとこうぜ。チクらない約束だしな。」
「知られたらただじゃ済まないと思うぜ……」

もう嫌、何もかもが嫌。
助けて……助けて……ねぇ、助けてよ。
「あれ、凛音ちゃん?」
「あ……」
兄の友人、白取達也である。兄を通じて凛音とも親しい関係にある。
実は凛音が密かに恋焦がれている相手でもある。
「……泣いてるの? 何かあった??」
(男の人でも、こんな優しい言葉を知ってるの……?)
涙の訳を話せないままで、達也の胸に顔をうずめた。

「ねぇ凛音ちゃん……どうしたんだよ。」
困惑した達也はとりあえず凛音を自分の家にあげた。
しかし、凛音は抱きついたまま離れてはくれないし、泣き止んでもくれない。
「先輩……」
ふと泣き顔の少女と目が合った。女の涙とはどうしてこうも魅力的なのだろう。
達也の心の奥で鼓動が大きく脈打った。
「凛音ちゃん……何があったかわからないけど、俺が側にいるよ。泣かないで……」
もう一度、信じてみたいと思った。男という生き物を……。
自分を玩具としか扱わない男達を何人も何人も見てきた。
男の下半身に理性など存在しなかった。どんなに優しい言葉をかけたって、全部
嘘。

だけど彼のことなら、信じられると……彼なら出来ると思った。
「達也先輩に……訳は話せません。だけど、一緒に眠ってくれますか?」
「? うん、いいよ?」
二人抱き合ったままベッドに入った。
暖かいのは毛布のせいなのか、それとも達也のせいなのか……。
こんなに大きな安心感に包まれて眠るのは初めてだった。
(この人なら、きっと大丈夫……)
達也への想いをより強い物にして、暖かい腕の中で目を閉じた。

翌朝、凛音は達也と二人で登校した。
この周辺の男子校生の中で一、二を争う達也である。当然人目を大きく惹きつけた。

普通なら妨害の一つでもあるのだろうが、
凛音の可愛い系ともいえないあどけなさと達也の正統派美形がよく似合っており見ていた女子生徒は悔しながらも、手も足も出なかった。
「じゃ、またね。今日は一応おくっていくよ。」
久しぶりに幸福を感じたのもつかの間だった。
「凛音?おはよう。ちょっと話があるわ。音楽室に来なさい。」
奈緒子の呼び出しに、昨日の嫌悪感を再び露にした凛音だった。

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