雨宿り
横尾茂明:作

■ 黍稈細工4

「うわーすごい! すごいすごい…」
「こんなにキレイなんだ…折り紙よりずーとキレイ!」

少女は黍稈を一本取り出し明かりに透かしてはしゃいでる。

扉が静かに開き、女中が入ってきた。
「淑ちゃんそんなに大きな声を出したら坊ちゃんに迷惑でしょう! 廊下まで聞こえますよ」と言いながらお盆を置いた。

「坊ちゃんごめんなさいね…うるさかったら追い出してくださいまし…」
「淑ちゃん! 静かになさいたら」

女中は少女を叱って出て行った。

少女はまだ箱の中の黍稈を見て「キレイキレイ!」と感嘆している。
一郎は少女の喜ぶ姿を見て不思議に思う、先ほどまであんなに恥じらい寡黙だった少女が黍稈の一言で有頂天になる…そのあまりのたわいなさに笑いさえこみ上げてくる…。

また一郎にとっては黍稈などなんの関心もなかったから、正直…少女がなぜ黍稈にこれほど喜ぶのかも理解出来なかった。

この黍稈は数年前、母が百貨店で買ってきたものだが一郎は一瞥しただけで本棚の奥にしまい忘れていたものだった…。

「淑ちゃん! キリンを作ってみようか?」

一郎は引き出しから肥後守の小刀を取り出し、黄色の黍稈を切ろうとしたとき…。

「坊ちゃん…もったいないよー」

幼い少女から坊ちゃんと言われたことにも驚いたが…黍稈を切ることがもったいないと言う少女に興味がわいた。

「どうしてもったいないの? 切らなきゃ細工が出来ないじゃないの」

「こんなに綺麗なの切っちゃったら…もったいないよー、淑子いやだよー」

コオロギを簡単に溺れさす残酷性に対比した少女の美意識…女の子というものが分からなくなってしまう。

「だったらこれ…淑ちゃんに全部あげるよ!」

「えっ! ほんと…うわー嬉しい!」少女は満面の笑みで歓びを表現する。

(こんな嬉しそうな顔…僕はしたことがあっただろうか…)

「じゃぁ…今度は本を読んであげようね」

一郎は本棚から巌谷小波の「日本昔噺」を取り出し、畳に腰を下ろして読み始めた。

少女は黍稈の箱を胸に抱いて一郎の噺に聴き入る…。

噺の頁を捲るたび少女は少しずつ一郎に近寄ってくる…ついには横に座り童話に描かれた挿絵を見だす。

先ほどから少女の甘い香りが一郎の鼻を擽る…。
股間が奇妙に痺れてくる…。

少女は次第に夢中になり次第にワンピースの裾がめくれて白い脚とそれにつらなる真っ白なモモが覗き始める…。

一郎の股間は痛いくらい硬くなってきた…こんな経験は初めてであり少しずつ胸も苦しくなってきた…。

少女は一郎の腕に縋って本を覗き込みはじめる…少女の柔らかな髪が時折一郎の顔に触れる…甘い香りがさらに強くなってきた…。

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