雨宿り
横尾茂明:作

■ 黍稈細工6

「淑ちゃん重いヨー…靴のヒモが解けないじゃないかー」

「坊ちゃんすごい汗だよ! 走ってきたの? …あっ、分かった! 淑子に早く会いたくて走ってきたんでしょう…」

「バーカ…そんなんじゃないよ!」
一郎は少女に心を見透かされた想いに思わず反発する。

「それより淑ちゃんの家は何処なの? どうしてこんなに早く来れるの?」
「一年生は僕より一時間早く終わるだけなのに…いつも僕より早く着いてる?…」

「ウフフ…走ってるの! だって早く坊ちゃんに会いたいんだもん」

「……………」

少女は一郎にぶら下がるように手を繋ぐか一郎の半ズボンの裾をいつも握っている。
そして何処にいくにも着いてくる少女…うっとうしいと思うことも多少有ったが…異性とは呼べなくとも少女とのふれあいは妙に心地よかった。

部屋に入ると黍稈でキリンが作ってあり一郎の机の上に置いてあった。

「これ淑ちゃんが作ったの?」

「うん! 昨日の夜作ったんだよ…坊ちゃんにあげたくて!」
「でも…もう黄色の黍稈が無くなっちゃった…」

少女は持ってきた黍稈の箱の中を寂しそうに見つめている…。

「じゃあ今度の日曜に百貨店に買いにいこうよ!」

「えっ! 百貨店?、うわー行きたーい…淑子まだ一回しか行ってないの」

「坊ちゃんと二人で行くの?」

「うん! お母さん達には内緒だよ!」

「ぅわーいくいく…坊ちゃんと一緒に行くー」

「はいはい、そんな大きな声出したら外に聞こえちゃうよー」

「………………」

「二人だけの内緒だよ…」

「うん! …ナイショ…ナイショだもん!」

「でっ、今日は何して遊ぶ?」

「坊ちゃん…この前の本の続きを読んで…絵のキレイな本…」

「ああ…日本昔噺だったね」

一郎は本棚から童話を取り出し、畳にお尻を付け壁にもたれ頁を捲る。
少女は一郎に寄り添って一郎の腕を抱いた。

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