雨宿り
横尾茂明:作
■ 秘密1
月日が流れ…一郎は高等中学を終える歳になっていた、今は一高を目指すべく最近は学校を終えた後も図書館に行って勉強をしていた。
図書館から帰ると庭の灯籠横に少女が座っていた…一郎を見つけ立ち上がって手を振る。
遠目にも美しい少女であることが分かる…この時期にスカートを履く女(誰なんだろう?)
「坊ちゃん…淑子です!」
少女は満面の笑みをたたえながら近づいてきた…。
(あっ…淑ちゃん!)
一郎はドギマギした…淑子があまりにも美しい少女に変貌したことに驚いたのだ。
「遅かったですね、先程おばさまに聞いたのですが来年は一高に進学されるんですってね…」
「あっ…いや、受かったらの話ですが…」
「母からいつも聞いてます、坊ちゃんは秀才だってこと! 坊ちゃんなら絶対受かりますよ!」
「…………………」
夕方なのに少女は光り輝いて見えた…ハイカラな服装のせいだけでなく体から滲み出る凛とした品と…眩しいばかりの美しさのせいと一郎には感じられた。
「でっ、今日は何故ここにいるの?」
「お母さんのお手伝いに来たの、おじさま明日から満州に行かれるんですってね、今日は歓送会が催されるとかでお母さん一人じゃ大変だからお手伝いに…」
「あっ…そうだった、関東軍の軍令部に行くって言ってたっけ…」
「……………………」
「お手伝い終わったら…少し坊ちゃんのお部屋に伺ってもいい?」
「えっ! …いいけど…何か?」
「ううん……」
少女は恥じらうように俯く…。
「いいよ! 待ってる」
「あっハイ! じゃぁ…後で…絶対部屋にいて下さいましね!」
一郎は駆けていく少女の後ろ姿を見つめながら…遠い昔の白昼夢を思い出していた…。
部屋に戻り服を着替えてから台所に行った、台所では数人の女性が慌ただしく料理の用意をしていた。
淑子は一郎を見つけると走り寄り「お食事すぐに用意しますから!」と嬉しそうに奥に消えた。
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