雨宿り
横尾茂明:作

■ 秘密3

一郎は意を決して部屋に向かう、扉を開けると淑子が座って待ってた、手には巌谷小波のあの日本昔噺が開かれていた。

「あっ…坊ちゃんお風呂でしたの…」

「う…うん…」

「この本…読んでましたの、挿絵が本当に素敵ですね…」

一郎は少女の隣りに座り挿絵を覗き込む…「そうだね…」

少女の白く細い綺麗な指先が目に入る…またもや一郎の胸にさざ波が立ち始める…。

二人は沈黙して挿絵に見とれる…しかし二人とも挿絵などは目には入っていなかった。
奇妙な甘さの時間…二人の心臓の鼓動が聞こえそうな静けさ…。

少女が沈黙に耐えきれないように…ぽつりと言葉を発した。

「あの時は…ごめんなさい…今日は坊ちゃんに謝りたくて…」

「えっ…」

「あの時…坊ちゃんに私の恥ずかしいところ見られて…もう動転しちゃって」
「後から…坊ちゃんに見られて恥ずかしくなったことが悲しくて泣きました…」
「坊ちゃんが私の恥ずかしいところを見たいのなら…どうしてもっと見せなかったのかと…」
「私が隠しさえしなかったら…坊ちゃんに嫌われなかった…大好きな坊ちゃんに…」

「あの灯籠横で坊ちゃんにパンツを脱がされたときから…ドキドキしてた、今まで男の子の前で裸になっても何ともなかったのに…あの時急に坊ちゃんの前では何故か…」

「あれから何度も坊ちゃんの部屋の前まで行きました…でもどうしても入れなかった…」
「毎日泣いていました…毎日…」
「あの日から子供のくせに…変なことばかり考えて…坊ちゃんにもう一度、私のあそこ見せたら…また前のように抱いてくれるかもしれないなんて…」

「あの時の感情…あの頃は分からなかったけど、数年したら分かりました…坊ちゃんがスキになってたんだって…泣きたいくらいスキになってたんだって」

「あれから坊ちゃんのこと忘れたことなんか有りません…ずーとスキでした、お母さんに坊ちゃんのことをいつも聞いていました…いつも学校に行くとき待ち伏せして…そっと坊ちゃんの後を隠れながらついて行ったの…」

少女ははここまで一気に喋り…座っているのも辛そうに肩で呼吸をし始めた…。
顔は熱にうかされた様に上気し頬がますます赤くなっていく。
本が小刻みに震えている…その振動が一郎にも伝播したのか二人とも震え始める。

少女は大きく深呼吸した…そして喉奥から絞り出す様な泣き声で…
「今でもスキです…泣きたいほどスキなんです…」
「だから私の体…見てください! 私の一番恥ずかしいところ…もう隠しません…もう隠したりなんかぜったいしませんから…」

「……………………」

一郎は思わず少女の肩を抱いた…少女はあの時のように強く寄り添ってきた…。

「嬉しい…やっと坊ちゃんに触れることが出来た…あぁーやっと坊ちゃんに…」

少女は泣いていた…。

「私を淫らな子と思わないで下さい…」
「坊ちゃんのこと考えると苦しくて…坊ちゃんが一高に入学して寮に入ったらもう二度とお逢い出来なくなりそうで…私苦しくて…死ぬほど苦しくて…」

少女は泣きながら一郎の腕を強く握った…。

またあの甘い香りがよみがえる…少女の髪の香りはあの時のまま…。

少女のスカートがめくれ真っ白な脚と…魅惑的な太ももが露わになる。

「私の一番恥ずかしいところを見てください…」
少女はスカートをたくし上げた…。

(…………………)

少女は下着を履いていなかった…おへそ近くまで露わになった眩しすぎる半裸はもう少女の造形ではなかった…。

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