淫辱通学
木暮香瑠:作

■ 謂れなきお仕置き3

 駅を出ると、そこにはいつもの見慣れた風景がある。本来なら、落ち着くはずの景色である。しかし、有紗にはその風景でさえ見るのが恥ずかしく感じる。知った人がいないか? 誰かに見られているのではないか? 二メートル近い大男と制服姿の美少女二人の組み合わせは、傍から見ると異様だ。一目で堅気の人間じゃないと判る権堂の後を歩いていることを、訝しく思われていないか気に懸かる。有紗と美由紀は、下を向いたまま無関係を装って雄一の後に続いた。

 雄一に連れられて行ったのは、有紗の住む街の繁華街だった。本筋を一本外れて裏道に入ると、有紗の知らない街の顔があった。飲み屋やキャバクラの看板が、通りを所狭しと飾っている。まだ夕方だというのに、数人の酔っ払いが千鳥足で歩いている。厚化粧の女たちが、通る男たちを店に呼び込もうと声を掛けていた。その場所の存在は知っていたが、未成年の有紗たちが来るような場所ではない。それどころか良識のある大人なら、そこに足を踏み入れることを憚る怪しさが漂っていた。有紗は同じ街に住んでいながら、初めてここに来た。

 街全体が醸し出す怪しさに重圧を感じながら、有紗は雄一の後を歩いた。知人がこんな所にいるはずがないと思ってはいても、知り合いに会うことが気掛かりで顔を伏せるように視線を落としていた。雄一が立ち止まったのは、一軒の店先だ。ピンク色の看板や紫色のポップが、窓を埋め尽くすように貼られたている。書かれている内容は卑猥なものばかりで、健全な店でないことが一目で判る。雄一はその店を指差し、有紗に命令した。
「この店で、バイブと手錠を買って来い! バイブは一番太いやつだぞ、いいな!」
 雄一が指差した店は、アダルトグッズの店だった。

 雄一は有紗にお金を渡し、この金で買って来いと言うのだ。有紗にはこの通りにいることだけでも恥かしいのに、こんな怪しげな店に入ることはとても出来そうになかった。有紗は、目を真丸く開き驚きを表し首を横に振った。
(いやっ、許して……。こんな店……、入れない。ましてやバイブを買ってくるなんて……)
「なに迷ってんだ! 命令に逆らう気か? 早く行かないか!」
 戸惑う有紗に、雄一の大きな怒声が浴びせられる。通りを歩いている人たちが、一斉に振り向いた。

 有紗は、キッと鋭い視線を雄一に向ける。
「刃向かうつもりか? いい度胸じゃねえか。ここで、いますぐ素っ裸に剥いてやろうか?」
 雄一ならやりかねない。自分の住む街の人たちには、恥かしい姿は見られたくない。今の有紗にとって、唯一残った安らげる場所なのだ。隣町では権堂兄弟に犯され、学園内でも理事長の陵辱を受けている。この街の中だけでも、恥かしい思いはしたくなかった。雄一の大声に振り返った人たちの視線の中、有紗は悔しさをぐっと抑えた。逆らえば、もっと酷いことをされる、辱めを受ける。たとえここから逃げられても、有紗のお尻にはアナルバイブが埋め込まれている。これを外してもらわなければトイレにさえいけない。雄一に逆らうことは許されない状況なのだ。
「いっ、いいえ……」
 有紗は、悔しさを抑え視線を下に落とした。
(私が買ってくるバイブで、私を虐めるつもりなんだわ)
 自分を責める道具を自分で買わなくてはいけない屈辱に、有紗は唇を噛んだ。

 有紗は、周囲の視線を気にしながら店へと歩を進めた。幸い、有紗の知った人はいないみたいだ。有紗は意を固め、店のドアを押した。

 店の中には、ヘアヌードの女性のポスターが壁を飾り、目にするのさえ恥かしくなるようなランジェリーが陳列されている。有紗が店に入った途端、数人いた客が一斉に振り返った。ただでさえ女子高生が入ってくることなどない店に、聖愛学園の制服姿の有紗が入っていったのだ。中にいた客たちは、驚きと好奇の視線を有紗に送る。生まれ持った人を惹きつける魅力が仇となり、客たちの視線を集めてしまうのだ。そして、客たちはその可愛さと魅力に見惚れた。

 有紗はその視線の中、恥かしさに俯いたまま、ただただ自分を知ってる人がいないことだけを祈りながら店の奥まで進んだ。店員らしき人物がレジの向こうにいる。何も判らない有紗は、店員に向かって言った。
「あっ、あのう……、バ、バイブと手錠が欲しいんですが……」
「バイブと手錠ですか? バイブはこちらにありますよ」
 店員は店に相応しくないような幼い女子高生をからかうように、店中に聞こえるような大きな声で答える。有紗は、頬を紅く染めた。
(そんな大きな声で言わないで……。み、みんな見てるわ……)
 店員が掌を返し、バイブの陳列された棚を示す。有紗は、羞恥に耳まで紅くし、チラッと店員の手の先を覗き見た。そこには、蛍光ピンクやパープル色した物が並んでいた。

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