アルバイトリンド
一月二十日:作

■ 3

「しかし本当ならショックだなぁ…」
「私だってショックだったよ。八木先生にはいろいろさ、ゼミやテストの時親身に教えてもらってるしさ。信じられないよ。…あんな男達に八木先生盗られるの…なんか癪…」
ミミはいらだった様にテーブルに爪を立てていた。
爪のコーティングがキラキラ光って波打った。
「お前、まさかヤキモチ焼いてるんじゃないか?」
「え? なんでよ。」
ミミは少しふくれた。しかし一瞬慌てていた。
「うそうそ。だけどなんか今の本気っぽかった。」
「これは肉親の愛に近いの!」
ミミはさらにふくれた。
「あぁ、分かったよ。…と、ところでなんの話がしたいんだい?」
「え? …あぁ、そうそう、ねぇリンちゃん? バイトしない?」
「え? なんの?」
「私のお話のアルバイトよ。」
「え? 何それ?」
まったくチンプンカンプンだった。

「一年後…」
ミミは食べかけのチーズバーガーを剥きながら呟く。
細く白い指先。
綺麗なピンク色の爪がチーズの油に濡れて光っている。
今度はいたずらにちぎり始めた。
ちぎったものを口に入れる。
閉じた唇の合わせ目にミミの唾液が沁み出している。
「え? なんだよ。一年後って。」
「リンちゃんの裸。」
「え?」
「ホウラ、約束してるでしょ?」
「あぁ、セックス?」

「セックス」の所だけ声をひそめた。

「その前にさ、リンちゃんの裸だけ見たいんだ。」
「えー?」
「それがバイトよ。」
「なんだよ、僕の裸の絵でも描くの? それともヌード写真かい?」
「まぁ、近いかな? でも違う。」
「じゃ、裸になって何するの?」
「ただね、仰向けに寝て…」
「仰向け? …で? 何すんの?」
「顔隠してね。」
「えー?」
「うーん、もう一人ね、裸の人がいるの。」
「僕以外にかい?」
「うん、そう。」
「それって誰だよ?」
「うーん…」
「もったいぶるなよ。」
「先生かも知れない。」
「せんせい?」
「うーん、八木先生。」
「えー?!」

また八木先生の顔が浮かんだ。
あの時の驚いた顔…

「驚愕と目?」
「はい、驚愕と目の関係。」
「驚いたら目が見開くってことねぇ…」
「えぇ。」
「それをどう考えるの?」
「先生…」
「はい?」

しかし本当にまったりした女の人だ。
その話し方といい身体といい。

「先生は真剣に聞いてくれるんですね?」
「え?」
「いや、こんな突拍子もない質問に怒りもせず。」
「でも土林君は真面目に聞いてるんでしょ?」
「いいえ、自分自身が質問の意味分かりませんよ。」
「え? え?」

質問…それは質問をきっかけとした告白への質問だった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊