薔薇の香り
横尾茂明:作

■ 1

叩かれてブリーフを下ろされた、知らないオジサンに付いていった罰? …。

部活をさぼり早めに中学を出た。
別に用があるわけでもないが、茶道部に少々飽きも出ていたから。
というのは茶道部は殆どが女子、男は僕と二年生のもう一人のみである。
友人は女子狙いとはいえ、よくもまー茶道部などへと言うが…自分はそんな邪心など毛ほどにもなく、ただスポーツに関心がなかったからだけであるが。

たしかに女子に囲まれていると心が安らいだ。
でも心の奥では癒されない何かを最近は感じ取っている。

先日、部活の帰り…剣道部の部室の前を通った。
その時、何とも言えぬ異臭を嗅いだ…男の匂い…それはすぐに分かった。

その匂いは心に滲みた…正直、目眩さえ感じるほど。
恥ずかしいけど…ペニスが硬直するのを感じ、俯いて足早にその場を去った。

いつからだろう…こんなふうに男の匂いに惹かれるようになったのは。
思えば…幼稚園の頃からだったようにも思う。

自分に父親はいない、母は女の子が欲しかったのか自分が小学生になるまで男の子とは思えぬ服装をさせ…自分もそれに違和感は全く覚えなかった。

家は中学から一駅向こう。
普通なら自転車通学になるのだが…。
女の子と見間違える容姿の僕を母は危ないと思ったのか電車通学にきめてしまった。

しかし…この電車通学がいけなかったと思う。
満員電車の中、中学1年のときから電車内で痴漢に遭うようになった。
初めての時は…恐怖で声も出なかった。
男が男に触れる…考えられない出来事だったから。
でも…最近は慣れてしまった、これは友人には言えない僕の秘め事。

満員電車の逃げられない状況で、知らないオジサンにペニスを弄られ…射精もたびたびした。
それは…自分でするより10倍も気持ちがよかった。

男の無骨な手で恥ずかしいことをされる…。
家でオナニーをするときはいつもそれを想像して逝った。


車窓から流れる夏の香り、もうすぐ夏休みが始まるんだ。

定期券を見せ駅を出る。
遠くに夕暮れに染まった赤い山々が幾重にも見えた。
(お腹が空いたな)
(今日もお母さん遅いって言ってたし…)
(少し早いけど…夕飯は商店街で何か食べようかな)

商店街の入り口を少し入ったところで知らないオジサンに呼び止められた。
オジサンは僕の目をジーッと見つめると唐突に。
「お前…あれだろう」
と言った。

「……………」

「まっいいや、黙って俺についてこい」

蛇ににらまれた蛙…その時…僕はそんな気がした。

商店街を無言で抜け、広い通りを横切りすぐに狭い路地に入いった。
僕の口中は乾いていた…何かを期待するかのように。
その時、目の前の景色は白く流れ、光りがハレーションのように眩しく感じ僕は目を背けた。

「ここだ」オジサンは僕の手を握り、壊れかけた引き戸を引いた。

その時、玄関の奥から何とも言えない異臭が漂う。
(あぁぁ…この匂い…僕、すき)

上がりがまちで靴を脱がされ廊下を歩く、オジサンの手はまだ僕の手を強く握っている。
逃げられず、何かスゴイちからで拉致されたって想い。

畳の部屋に座らされた、オジサンは僕の正面に立っている。
(なんで…僕…付いて来ちゃったんだろう?)

オジサンが頭を触ってきた、髪を指で梳くようにしながら空いた手で耳に触れる。

フッと浮いたように腰奥がしびれた。

「おまえ…たっぷり遊んでやるからな」

オジサンの手は頭から滑り落ち、唇に触れてきた。
親指で上唇と下唇を交互に揉むように…。

そして…口中に入ってきた、ペニスが痛いくらいに硬直していた。

「男の子のくせに」

オジサンの言葉にびっくりするような羞恥がわき起こった。

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