青い目覚め
横尾茂明:作

■ 旅立ち2

「おじさん…なに考えてるの? 美味しくない?」

「ううん…美味しいよ…おじさん…由美ちゃんのこと考えてたんだ…」

「由美のこと…?」

「うん、おじさんネ…もー…由美ちゃんから…離れられない!」

「由美ちゃんのこと、好きで好きで…たまらなくなってしまった…」
「おじさん………」
幸夫の目に涙が浮かんだ…妻が死んだ夜以来…初めての涙であった。
一体…何の涙なんだろう…この涙の意味は…。

由美の綺麗な目元にも大粒の涙が湧き…頬に零れた…。
「おじさん…嬉しい…由美嬉しくて…嬉しくて…」

「おじさんに会って…こんなに短いのに…由美…由美…」


由美は俯き…次から次に溢れ出る涙を手に受けた…静寂に由美の嗚咽が揺れた。

幸夫は立って、由美の後ろに回り…背後から由美を抱いた。
「由美ちゃん…おじさんのものになってくれないか?」

「……もう心から…由美はおじさんのものだよ」

「高校を卒業したら由美…おじさんのお嫁さんになるの!」

「誰が反対したって…由美…由美…おじさんと絶対離れない!」


由美は振り返るなり、幸夫の唇を夢中で吸った。
両手を幸夫の首に廻し、気が狂うほどの思いを込めて…幸夫の口を吸った。



車は田園風景を車窓に写して走っていた。
「おじさん…もうすぐだね」

「うん、あと10分ぐらいかな」幸夫は笑顔で由美に答えた。

「お母さん…ビックリするかなー」

「……………」

幸夫は思った…少女の母親は多分行き先にはもう居ないのではないかと…。
16才の少女を5日間も音信不通で放っておく母親がいるだろうか…。
幸夫にとっては…正直…母親が消えてくれていたら…どれ程嬉しいか…。
しかし由美の心を思うと…やはり…やりきれなさを感じた。

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