新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ プロローグ4

 少女の嗚咽はまだ切れ切れに続いている、そんなとき店側のドアが沈黙を破るかのように勢いよく開けられた。

「社長! 客が立て混んできましたのでバックアップ・・」
「社長・・どうかされました?」

 バイトの子が二人の姿を怪訝そうに見つめた。

「今行くからレジは店長に頼んで!」

 バイトは少女の涙を見ながら首を傾げてドアを閉じた。


「絵美ちゃんもう泣くのはやめなさい。おじさんも事を荒立てるつもりは無いから・・でもこんな破廉恥な罪を簡単に許すわけには行かないよ」
「おじさんきょうは忙しいから、今度の火曜にまたここに来なさい。店は休みだから裏口を開けておくよ」
「それから生徒手帳を出して、コピーを取らして貰うからね」

 絵美は涙を拭きながら事の成り行き次第では許して貰えそうとの予感で・・
少し安堵の色が顔に現れ始めていた・・。

 孝夫は絵美から生徒手帳を受け取るとコピーし手帳を返しながら・・
「絵美ちゃんこの余白に今からおじさんが言う事を書いて」

 孝夫はコピー紙を絵美に渡しボールペンをノックした。

「私は本を万引きいたしました。罪を恥て今後このようなことは二度としないことを誓約いたします」

「それから氏名も書いて」

 絵美は言われるままに書いた・・氏名を書く時は一瞬躊躇はしたが・・。

 孝夫は絵美の美しい字に舌を巻いた・・(俺よりうまい)

「じゃぁもう帰りなさい。あっ・・それからこの本は持って行きなさい。涙で濡れちゃったからもう売り物にはならないよ」

「・・・・・」

「お・・お金払います・・いくらですか?」

「いいんだよ! 君この本が欲しかったんだろ。あげると言ったんだから黙って持って行きなさい!」

 絵美は孝夫が機嫌を損ねたと思いたじろぐ思いであったが・・孝夫がすぐに微笑んだのを見て安堵した。

「おじさん本当にゴメンナサイ・・今度の火曜には絶対来ます・・」

「分かったよ・・さー気を付けてお帰り」


 孝夫は裏口を開け絵美の背中を押した・・絵美は何度も振返り、お辞儀をしながら街の雑踏に消えて行った。

(あの子・・もう来ないかもしれないな・・まっ、でも年甲斐もなく少し興奮し叶わぬ夢を想像することが出来ただけでヨシとしようか。しかしあの時バイトがもし入ってこなかったら・・何を馬鹿なことを考えて・・さー仕事仕事!)

 孝夫は店に出ると何事も無かったようにまたレジの前に佇み・・初夏の陽光を背中に感じ・・客の流れを嬉しそうに見つめはじめた。

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