新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ 挑発2

「さーこれで君は無罪放免だよ」
「きょうはおじさん忙しくてね・・店がお休みだから誰も居ないんだ・・」
「今売れない本を引いてるとこなの・・箱詰めが大変なんだヨ」
「だからもう帰って・・それから・・もうあんなことしちゃ絶対だめだよ」
「そんなに可愛いのに・・あんな本・・」
「まっ・・くどい話しはいいか・・さっ、早くお帰り」

(・・・・・・・・)

 絵美は拍子抜けで緊張の糸が切れ・・その場に佇んでしまった。

 孝夫は青い顔でボーと立ってる絵美を見て・・「どうかしたの?」と聞きながら「貧血みたいだね・・緊張しすぎたんだ・・可哀想に」

「ちょっとここで休んでいきなさい・・おじさんも休憩したいからコーヒでも入れるよ・・君も飲んでいきなさい」

 孝夫はポットを取り出し、カップ2個を掴んで器用にコーヒーを注いだ。

「君はミルクと砂糖がいるよね・・でもこには置いてないんだ・・アメリカンだから飲めないことはないかな? 飲むと落ち着くからね」

 孝夫はカップを絵美に差しだした。絵美はこっくりお辞儀して両手で受け取り、「暖かい」と呟いた・・それは罪から開放された己を吐露したのか・・それともおじさんの行為を言ったのか・・。

 絵美はコーヒーを啜った・・心の奥襞に滲みる暖かさだった。

「さーおじさんは一働きするよ。君は気分がよくなるまでここで休んでなさい」

 孝夫はドアを開けて店に入って行った。絵美はなおもコーヒーを啜りながらうっとりとした表情で危惧が解消した開放感を噛みしめていた・・。

(来てよかった・・やっぱり優しいおじさんだった)
(でもなんだか気が抜けちゃったな・・何でだろう)
(おじさんがこんなに簡単に許してくれるのは以外過ぎたから・・)
(公園のトイレでアソコ拭いたとき・・私・・何を期待してたの?)
(あの本・・幾度も読み返した・・小説の恥ずかしいところで何回もオナニーしちゃったな・・あんな恥ずかしいこと・・普通は体験出来ないもん・・)
(絵美・・やっぱり異常なのかな・・おじさんの目・・ゾクっとする・・)


 孝夫が事務所に戻ってきた・・
「なんだまだ居たの・・気分は良くなったかい」


「ハイ・・おじさんコーヒー有り難う・・すごく美味しかったよ」

「そうかい・・おじさんコーヒーにはチョットうるさいんだ。朝いつも自分で豆を挽いて入れてるんだよ・・面倒だけど薫りがいいからね」


「おじさん・・お礼に絵美にも手伝わせて下さい」

「いやー、本は重いから・・女の子にちょっと無理だよ・・お礼なんかいいからもう帰りなさい」

「でも・・じゃぁ箱に入れるだけでも手伝わせて下さい」

「そうかい・・悪いなー・・じゃぁ君の気の済むだけ手伝ってもらうかな」

「ではここに有る本をこの箱に、縦に隙間のないように詰めてくれるかな」


「ハイ! 分かりました」

 絵美は机の上に雑然と置かれた本の山を一冊ずつ丁寧に箱に詰めだした。なんとか1箱を詰め終わる頃・・隣の机にはまた新しい山が出来ていた・・。

「絵美ちゃん疲れたらいつでも切り上げていいんだよ」

 絵美は汗を拭いながら黙々と山を崩して行った。


「絵美ちゃん! もうこの5冊で終わりだよ・・有り難う、疲れたでしょー」
「スゴイ汗だね」

 孝夫は絵美の横に並び絵美が詰めた段ボールにガムテープで封をしていった。時折絵美が動いたとき・・何とも言えない若い体臭が孝夫の鼻を擽った。

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