新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ 挑発3

「さー終わったよ、本当にありがとう・・助かったよー」
「いまおしぼり持って来るから待っててね」

 孝夫は事務所の冷蔵庫で朝冷やしておいたおしぼりを取り絵美に渡した。

「うわー冷たくて気持いい、絵美こんなに汗をかいたの初めてなの」
 
「うわー・・絵美ちゃん髪まで濡れちゃったね・・ごめんね」

「んー・・じゃぁ今度はおじさんの方がお礼しなくちゃいけないよね」
「もう6時だから夕食でも奢ろう・・でも・・家の人が待ってるよね?」

「ううん・・お母さん・・きょうも帰って来れないかもしれないって朝電話が有ったの」


「・・・・・お母さん何やってる人なの?」

「・・・・女優」

「へぇー女優って・・おじさん知ってる人?」

「おじさん・・佐野響子って知ってます?」

「知ってるとも・・へぇー絵美ちゃん・・ひょっとすると佐野響子のお嬢さんなの?」

「・・・そうです・・」

「ウワーどうりで絵美ちゃん綺麗なはずだ・・へー・・佐野響子かー」
「おじさん若い頃ね・・佐野響子の大のファンだったの・・今でもテレビで見るとドキってするんだ! フフフ」
「お父さん・・そういえば亡くなったんだよね・・以前テレビのニュースで見たよ・・・まだ若かったのにネ」

「・・・・・」

「そうか・・お母さん今日は帰れないかもしれないんだ・・じゃぁおじさんと晩ご飯食べようよ!、絵美ちゃんの好物・・おじさん奢ちゃうから」
「絵美ちゃん何が食べたいの?」

 孝夫は心が若やぐのを覚えた・・こんな感覚になるのは何十年ぶりだろうか。

「んー・・何か暖かい家庭料理のようなものがいいです」

「家庭料理?・・そう言えば・・おじさんもずいぶん長いこと食べてないなー」

「えっ! おじさんは奥さんいないの?」

「うん・・昔・・死んじゃったんだ」

「そうですか・・」

「そうだ! 絵美ちゃん僕の家にくるかい?、二人で晩飯作ろうよ」

「ええ! お邪魔してもいいんですか?」

「いいとも! 去年マンションを変わって君が初めてのお客さんだけどね」


 二人は書店の鍵を閉め商店街で夕食の材料を買った・・遠目では仲のいい父子に見えるに違いない・・短時間の内に二人の距離は急速に縮まった・・それは二人に共通する愛への渇望がそうさせたのかもしれない。

 木場公園を横切り少し歩いて高層マンションの玄関にたどり着いた。

 広いロビーを抜ける際・・いつも挨拶するガードマンが今日は気を利かしたつもりなのか二人に気づかぬふりをしてくれた・・。

 棟の入口中央に有るカウンターに鍵を差し込むとゲートが開き、二人はゲート内に数台並ぶエレベータの一つに乗った。

「おじさんちのマンションって・・セキュリティーが厳重なんですね」

「そうかなー・・」

 22階でエレベーターを降り少し歩いて、ここだよ! と言って孝夫は鍵を取り出した、「さー入って、ちょっと散らかってるけど男の一人暮らし・・大目にみてね」

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