新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ 挑発4

 北側が廊下になっており瀟洒な扉が配置されていた。扉を開け二人は突き当たりのリビングに行き孝夫は大きな南ウインドを開いた。
「さーベランダに出てみてよ・・景色がすごくいいんだ!」

 二人は夕暮れ迫るベランダに出た、江東区が一望に見ることができ、遠くにお台場の灯りが微かに望めた。

 初夏の風が心地よく・・絵美の長い髪は大きく揺れていた。

 孝夫はそんな絵美の横顔を見つめ・・不思議な少女だと感じた、とても万引きをするような子には見えない・・性格のよい律儀な少女としか映らないが・・。

(逢って2度目で自宅に招き入れる俺も俺だが・・付いてくる子も子だよな)
(警戒心は無いのかナー・・それとも俺には男の匂いはもう感じられないのかな・・
まっ! 親子ほどの年の差・・そうだよなー・・)

「さっ、絵美ちゃんお腹空いたでしょー、作ろうか」

「はい」
 絵美は白い歯を見せ嬉しく微笑みながら頷いた。

 二人はキッチンに入り、買ってきた物を調理台に並べた・・
「あっ! いけない、味噌を買うのを忘れてたよー・・おじさんチョット買ってくるから待っててね」

「その間・・絵美ちゃんはシャワーでも浴びてなよ、すごく汗をかいたから気持悪いでしょう?・・あっそうか・・下着が無いよねー・・」

「絵美ちゃん・・もう下着も洗っちゃったら!・・乾燥機で乾かせば30分で乾くよ!」

 言ってから孝夫は思わず・・我ながらすごいこと言ってるなと心の隅で感じた。

 少女は柔らかく辞退するとばかり思いその言葉を孝夫は待った・・しかしその少女の口から出た言葉は以外にも・・
「シャワー使ってもいいんですか・・絵美・・髪が汗臭くないかすごく心配だったの・・おじさんありがとう」

 孝夫はその言葉に少しドギマギした・・そしてそれを恥じるように気を取り直し、少女にキッチン横のバスルームを案内し、シャワーの使い方と乾燥機の使い方を説明した。

「おじさん・・下着が乾く間・・着るものをお借り出来ませんか・・」

「ごめんごめん気づかなくて・・んーちょっと待っててね」

 孝夫は自室に行き洗いざらしのワイシャツを持ってきた・・
「こんなものしか無いけど・・大きいからいいよね」

「おじさん有り難う・・お借りします」

「じゃ! 行って来るから鍵締めておいてね」

 孝夫はエレベーターの中で・・
(何だろう・・この心の浮き立ちは・・)
(少女とはいえ・・女・・それも大人びた美しい少女・・見ているだけでこの歳でも心が浮き立つほどの美少女・・若い頃に憧れた佐野響子に似ているからなのだろうかな・・今頃シャワーを浴びている・・いかん! 俺はいったい何を想像しているんだ!)
 孝夫は頭を振っていかがわしい想像を切り捨ててエレベーターを降りた。

 一方絵美はシャワーを浴びながらハミングしていた・・そして時々感じた、
(私いまなにしてんの・・おじさんに許して貰うため謝罪に来たのに・・図々しく家にまで上がり込んでシャワーを浴びている・・おじさんがもう帰ってもいいよと許してくれたのに帰れなかった・・本当にお礼だけのつもりで手伝ったの? 私はおじさんに何かを期待してるの?・・・・おじさんの目・・)

 絵美はしきりに政夫の目が気になった・・何かを求めてる目・・そんな気がしてならなかったのだ。政夫に腕を掴まれた瞬間・・大きなものに囚われたと感じた。もう自由ではいられない・・得体の知れない大きな力・・心がざわめきそれをあたかも心の深淵で望んでいたような。

(だからあの時・・おじさんが絵美にしたいこと、ひどいことされても我慢しますから許して下さいと言ったの?・・絵美・・自分の心が分かんないよ)

 シャワーを浴び下着を洗って乾燥機に入れた。おじさんのワイシャツを着てリビングのウインドを開けベランダに降り立つ・・風が吹き抜けワイシャツがまくれ上がり股間に風を感じる・・なにかすごいHな感覚が走る・・この時絵美は自分の心の奥底で期待していた何かの一端を垣間見た気がしてゾクっと震えた。

 キッチンで白菜を切っているときドアが開き、おじさんの「ただいまー」の声が聞こえた・・絵美はドアに走り寄り「遅かったのね」と言ってから何故か顔が熱くなるのを感じた・・。

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