新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ 懊悩4

 孝夫は疲れ果ててマンションにたどり着いた。ロビーを抜けようとしたとき後ろから、「お嬢さんが来てますよー!」とガードマンの声・・。

(ウソ! あぁー来てる・・来てるよー!)
 孝夫の顔にみるみる笑みがこぼれていく・・エレベーターの速度がもどかしく、足を踏みならして沸き立つ喜びを噛みしめた。

 ドアの鍵を回す手が情けないほど震えるのを可笑しく感じながらドアを開け、奥に向かって、「ただいま!」と声をかける・・バタバタと足音・・「お帰りなさい!」の声とともにあの美しい少女が満面の笑みを浮かべて現れた。

(あぁぁー絵美だ・・絵美だ!)

「おじさん・・来ちゃった」
 そう言うと少女は孝夫に抱きつく・・「昨日からおじさんのことばかり考えてた・・おじさんのことばかり・・」

「ごめんなさい・・ごめんなさい・・昨日は勇気が無くて・・マンションの玄関まで来たけれど・・どうしても入れなかったの・・お家に帰って泣いてたよー・・」

「つらくて・・苦しくて・・だからきょうは・・頑張たの! 絵美・・頑張ったの」
「ガードマンのおじさん・・昨日は根掘り葉掘りすごくしつこかったの・・だからお今日は父さんに会いに来たって言っちゃった・・通してくれたよー・・通してくれたのー・・」

 孝夫は絵美の顔を両手で挟み正面から見つめた・・その絵美の涙顔がすーっと流れるのを感じ・・自分も知らぬ間に泣いているのに気づいた。

 絵美は孝夫の目から涙が零れたのを見た時・・耐えていたものが外れたように声を出して泣きはじめた・・
(おじさんは待っていてくれたんだ・・私と同じように苦しみながら待っていてくれたんだ!)

 孝夫も慟哭して震えた・・涙とはこんなに出るものかと・・・・・。

 孝夫は絵美の顎を指で上向け可愛い唇を吸う。絵美も夢中で吸い返してくれる・・舌で絵美の舌を追い求める・・気の遠くなるほど幸福な時間の流れ・・。

(あー・・俺は・・本当に狂ってしまうんだろうなー・・・・)

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