新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ 傾倒1

絵美が帰った部屋は何事もなかったかの様に静まり返っている…。
孝夫はリビングのソファーに俯せに寝…顎を腕の上にのせて煙草をくゆらせた。
まだ陰茎が痺れ…懈怠が全身を包んでいる…。
少女の滑らかな肢体…透きとおるほどの白さから醸し出される気品有る艶美…。
乳房の柔らかさ…小さな口中から狭い気道に滑る亀頭の痺れ、暖かい膣に締められ迸る射精の快感…それらはまだ全身を軽やかに痺れさせ頭を白く濁らせている。

孝夫の昨夜までの消沈は少女との狂ったような性交で一気に吹き飛んでしまった…。
しかし絵美の心理の奥に潜む得体の知れない淫獣を垣間見た想いは…まだ払拭出来ずにいる…。

あの余りにも希有な天使像…しかしそのたおやかな肌の下には…。

(彼女は俺をSと勘違いしている…)
(そうだとして…なぜ彼女はそう感じのたか…)

長い歳月…SEXとは無縁の所に身を置いた自分…今は若やいだ肉体を見るだけで充分満足してしまうのに…ましてやその少女に触れ性交さえ行使した…こんなこと数週間前の俺には想像も出来なかったこと…そんな俺の何処に…。

(あぁぁ…手放したくない…あんなに白くたおやかな肉体をどうして手放せよう)

今は正直このまま溺れていきたいと想う気持と…絵美が真に欲する要求に応えられないかもしれないという不安が錯綜し沈鬱な気分に沈んでしいる…。

(俺は…絵美と逢い…若やいだ空気に触れ…たまに普通のSEXが出来たら…多分それだけで満足であり…至福であるはず…)
(しかし…そんなんじゃ…あの絵美はいずれ俺に満足できず…この手からすり抜けて消えてしまうだろう…)

(俺は純粋に彼女に恋してる…しかし絵美はそんなことは俺には望んでいない…絵美が望んでいることはSを行使する別の俺なんだ…)

(俺の何処をどう見たらSに見えるというのだ…)

先日…「Mの心理」という本を読んでみた、しかしどうしても理解出来なかった…。
ただその中で「そんなものかな」と感じたところも無いではなかった…。

それはMとは相手に服従することを喜びと感じ、相手に支配されることを愛情ととらえる。

理不尽な暴力または性的暴力を受けた場合、逃避の道を塞がれた子供は本能的に自己保存を計ると言う…それは精神に膜を張り、相手に迎合してやり過ごす保存行動…。
これが日常化した場合は次の手として相手の理不尽な行使を受容しなければ生かされないを…愛されないとすり替え、それら性的「支配」を「愛情」とすり替えてさらなる保存を計っていく…。
特に自我形成期、支配…愛情…歪んだ性交というプロセスを強要された場合…その後…ノーマルな生殖行為では性感は浅く、支配迎合と恥辱の縁にのみ快楽の源泉を見いだしていく…、それがマゾ化のプロセスと言える…。

(このプロセスが絵美にも当てはまるのか…)

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