ボヘミアの深い森
横尾茂明:作

■ 孤独と殺意6

何もすることがない…少女は牢獄に繋がれた囚人の心境を思う、ただ何かを漫然と待つことがこんなにつらいものとは知らなかった、せめて本か雑誌でも有ればと先ほどついでに探したがやはり何も見つからなかった。

少女は肌寒さに周囲を見渡す、自分の着ていた服は意地悪くロープの届く範囲外に置いてある。
仕方なくベットに散らばる恥ずかしい下着類を着け始めた。

ほとんど紐で出来たTバックに前開きのパンティーを着けて下を見る…思わずその滑稽さに笑みがこぼれた。

ベットの上の赤く透けたキャミソールを手に取り窓辺にかざす…ほとんど透明に近い薄い生地。

その軽さに驚きながらも頭からスッポリと着る…しかし手錠で両手が繋がれているため肩に通すことが出来ず胸に巻いたに過ぎなかった。
しかしそれでもほのかに暖かいことは嬉しかった。

(さて…何しよう)
(あっ、そうだ食器を洗わなくちゃ)

少女はベッドから飛び降り、キャミソールを胸上まで引き上げて台所に行く。
水道を捻り水でお皿を洗い始める、油がなかなか落ちず時間をかけて擦った。

台所の隅々を雑巾で拭きあげ小さな冷蔵庫も綺麗にした。

(フーッ…終わちゃったな…)

(次は何しよう…)
(もうバスと便器しかないか)

今度も時間をかけ、舐めるほどに綺麗に磨き上げた。

思いつくところをすべて掃除し、ベットに戻った時は窓の外はもう暗くなっていた。

肩で息をしながら手の甲で汗を拭おうとしたとき手首に鈍痛が走る。

見ると手首が手錠の角で擦れたのか、微かに血が滲んでいた。
手錠の輪が小さくなり手首に食い込んでいたのだ。

(痛いよー、明日はもうジッとしていよう…)

汗が引き体が冷え始める、少女はブルっと震えベットに潜り込む、そして天井を見上げた。

天井のシミがいろいろな形を見せる、以前プラハの女学院でルームメイトとシミの形を言い合ったのをふと思い出した。

(あのころは…毎日が楽しくて…)

(寮友との別れ、それからのドイツでの苦しい行商…)
(ようやくおうちに帰れると喜んだのもつかの間…)

(今はこんな恥ずかしい格好で檻に繋がれ…男の性奴隷に堕とされている)
(私が何をしたというの…)

少女の目から急に涙が溢れた、そして喉奥から絞り出すような悲しげな嗚咽が漏れ出した。

天井のシミが涙に揺れてオジサンの顔になった、そしてそれが巨大なペニスに変わったとき少女は唇を噛んだ。

殺意…少女はこの時初めて人を憎んだ、オジサンを殺さなければここからは絶対逃げられないと…。

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