僕の転機
MIN:作

■ 第2章 救いの手2

 教室に戻って鞄を手に取り、教室の入り口に向き直ると、半分閉まっている扉の影に、昌聖の腹が見え隠れしている。
 今日のように臨時の集会が入ると、美咲達は早めに解放されるため、昌聖と一緒に途中まで帰る事がある。
「近藤君、行きましょうか?」
 明るい笑みを浮かべながら、昌聖に話しかける美咲。
 愛らしい笑顔を正面から見せられ、照れて俯く昌聖。
 2人で廊下を渡り、玄関を抜け、校門をくぐる。
 その間、2人の間に会話は一切無かった。
 いつも無口な昌聖だが、今日は拍車を掛けて話さない。
 表情も、何処かに思い詰めた感じが漂っている。
「美咲ちゃん御免ね…そんな物作ったりして…」
 昌聖が、突然美咲に向かって呟く。
 美咲は、少し驚いたような顔をして、薄く何処か寂しげな笑みを浮かべ、首を振る。
「ううん、近藤君のせいじゃないわ。あの人達だったら、また別な物を考えていたでしょうし…」
 ポツポツと呟く美咲の言葉は、昌聖の心を少し軽くし、別の意味で重くもした。
(こんな優しい子を守れないなんて…僕って最低だな…。でも…逆らえない…)
 落ち込む昌聖に、美咲が怪訝な表情を浮かべ、問いかけた。
「どうしたの近藤君?今日何だか変よ…」
 美咲の心配する声に、昌聖が告白を始めた。
「御免、美咲ちゃん!僕あいつらの言う事を聞かなきゃ、父さんと2人で犯罪者に成っちゃうんだ…」
 突然、美咲の方を向き、泣きそうな顔で自分の掴まれている弱味について語り出す昌聖。
 その勢いに、面食らった表情を向ける美咲。

 言葉を続けようとした昌聖に、クラクションを鳴らしながら一台の黒いセダンが近寄り、窓を開ける。
「昌聖!久しぶりだな、どうしてた?」
 声の主は、サングラスを取ると、その素顔を昌聖に晒す。
「宗介さん!いつ帰ってきたの?久しぶりだ〜、今度はいつまでこっちに?」
 先程とは、打って変わった表情で、宗介と呼ばれた人物に話しかける。
 美咲は、昌聖の表情の変化に驚いたが、それ以上にその青年の美形振りに驚いた。
 髪は無造作に撫で上げた物か、ユッタリとしたウエーブが掛かり、少し濃い目の引き締まった眉、その下にある切れ長の目に、スッと通った鼻、薄めの唇が酷薄そうな印象を与えるが、目尻に刻まれた笑い皺がそれを打ち消している。
 それらが、見事なバランスで綺麗な卵形の顔に納まっていて、美咲は思わず見とれていた。

 昌聖の横にいる美咲に目を移し、ホゥと言う口をして
「昌聖…彼女か?」
 崩した笑みを浮かべ聞いてくる。
 大きく手を広げ、ブンブン振りながら否定する昌聖。
「美咲ちゃん。この人は僕の小さい頃から世話になってる、言ってみれば兄貴みたいな存在の久能宗介(くのう そうすけ)さん。26歳独身…だよね?」
 最後は、宗介に聞くように話した昌聖。
「そうだよ。君は美咲ちゃんて言うのか、宜しくね…」
 宗介は、美咲に向かって軽く手を挙げる仕草をした時に、異変に気が付いた。
 美咲は、顔を赤らめ、俯きながらモジモジと足を擦り合わせている。
 宗介は、険しい表情を昌聖に向けると
「どうやら、詳しい話は車に乗ってからの方が良いな…。昌聖、後ろに乗せろ」
 宗介が昌聖に指示すると、昌聖は素早く美咲を後部シートに乗せ、扉を閉め助手席に乗り込む。
 美咲は、後部座席で押し殺した悩ましい声を上げている。

 ハンドルを握る宗介は、暫く様子を見ていたが、低い声で昌聖に詰問し始めた。
「あれは、お前の仕業か?…」
 宗介の声と質問に、昌聖はギクリと表情を硬くし、しどろもどろに事情を説明する。
「確かに作ったのは僕だけど…」
 そう言った瞬間、宗介の拳が昌聖の顔面を捉えた。
 後ろで、ショーツの動きに耐えながら悶えていた美咲が、宗介の行動を慌てて制止する。
「違うんです!近藤君は、違うんです!だから、止めてください…イヤー!」
 必死に縋り付く美咲だが、ショーツの動きに耐えられ無くなり、股間を押さえ踞る。
「わかった、詳しい事情は後で聞こう。もうじき俺の家だからそこで良いな」
 有無を言わせぬ迫力で、顔を押さえ上体を起こす昌聖に宗介が呟くように言う。
 コクンと頷き、美咲にも同意を求める昌聖。
 数分もしないうちに、一軒の大きな家の駐車場に車が滑り込んだ。

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