僕の転機
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■ 第2章 救いの手5

 家に戻った宗介は、大きな旅行鞄を3つ用意し、出掛ける時には駐車場に無かったワンボックスに乗せ、昌聖に乗り込むように指示した。
 指示に素直に従った昌聖が、助手席に乗り込むと宗介が車を発進させる。
「さっきの話しだがな…」
 車に乗ると突然話し出す宗介と、宗介が示す話が何なのか分からない昌聖。
「お前の家の話しだよ!俺が笑ったのには、理由が有るんだ」
 少し間を置き、昌聖の反応を確かめ続きを始める。
「俺は、有る組織に所属している。その組織の関係で、昔から俺の家族とお前の家との付き合いが有ったんだ」
 昌聖は、不思議そうに頷き、言葉を挟もうとするが、宗介に制止される。
「その組織は、かなりの力を持って居る。世界規模でな…そしてその中でも、お前の父親は、古手の幹部なんだ。だから、お前の父親が極端な話、人を殺したとしても罪に問われる事は無い」
 突拍子も無い話を突然聞かされ、理解出来ない昌聖。
「本当は、こんな話を俺が、昌聖にしちゃいけないんだけど。もっと聞きたかったら、有る方法を取って、正式に親父さんに聞け…。着いたぞ」
 話を聞いている内に目的地のホテルに着いた二人は、チェックインして待機する。

 一方美咲は、自宅のマンションに帰り、制服を着替え美由紀に言われたとおり、勝負パンツを履いた。
(これは、もし美由紀達にチェックされた時用の物だからね…)
 心に言い訳をしながら、赤面する美咲。
(宗介さん…って言ったわね…私を50万円で買ってくれた…)
 歩美達を騙す口実と知りつつ、惹かれる美咲の気持ち。

 身なりを整え、約束のホテルへと急ぐ美咲。
 ホテルに着いたのは約束の15分ほど前で、一人ロビーに佇んでいると、
「美咲ちゃん待った〜」
 明るい声で呼びかけてくる美由紀と、その後ろで微笑みを浮かべながらついて来る佐知子。
 美由紀は、バンドの名前が入ったTシャツに、デニム地のミニスカートで、スニーカーというラフな格好。
 一方佐知子は、フリルの付いた白いブラウスに、黒のフレアスカートで、ローファーを履いている。
 どちらも、見栄えはすこぶる良く、美咲と3人で合わせると、とても華やいだ雰囲気を醸し出していた。

 そして待ち合わせの時間ピッタリに、歩美がやって来た。
 ユッタリとした淡いピンクのブラウスに、紺のタイトミニの巻きスカートで、ヒールを履いて、とても高校生とは見えない出で立ちで現れた。
「集まったようね。お客様を待たせる訳にはいかないから、急ぎましょう」
 一番最後に来て、もっともな事を指示する歩美。
 カウンターに美由紀が駆けて行き、客室を聞いてくる。
 戻って来た美由紀は、軽く口笛を吹くと驚きながら
「この客凄いですよ。この牝犬に50万円と、一泊10万円のスイートを取ってますよ」
「美由紀さん、こんな所でお金の話は下品ですよ…行きましょうか…」
 美由紀をたしなめて、エレベーターに向かう歩美。
 残り3人がその後に付いて行く、4人のそれぞれタイプの違う美少女がロビーを横切る。
 この集団が、1匹の奴隷を売り渡す3人の主人達だとは、誰も思わないだろう。

 エレベーターに乗り込むと、美由紀が目標の階のボタンを押す。
 静かに上昇し、エレベーターが止まって扉が開く。
 4人は約束の部屋に行き、決められたノックをする。
 扉がカチリと奥に開き、4人を招き入れる。
「どうぞ、こちらに…」
 招き入れる声にひかれ、部屋の奥へと進むとオートロックの扉が静かに閉まり、鍵が掛かる。

 部屋の中に立っていたのは、歩美達の予想を大きく裏切る美青年だった。
「どうも、私お約束した久能と申します」
 にこやかな表情と優雅な物腰に、息をのむ4人。
 格好自体はスラックスにボーダーシャツとラフだが、滲み出る気品に圧倒される。
 一歩前に進み、後ろに組んでいた手を差し出しながら、握手を求める。
 反射的に美由紀が、宗介の黒い手袋をした右手に握手を返す。
 手が触れた瞬間、美由紀の身体がビクンと跳ね、床にくずおれた。
 呆気に取られた佐知子の首筋に、宗介の手がスルスルと伸びると、佐知子の身体も床にだらしなく横たわる。
 危険を感じた歩美は、いち早く身を翻し入り口に向かうが、真後ろにいた美咲にぶつかり、尻餅を付く。
 そしてその歩美の首筋に、宗介の手がユックリと触れ、たっぷりと手袋に内蔵されたスタンガンの電圧を流し込む。
「終わったぞ、昌聖手伝え。美咲ちゃんも頼む」
 宗介が手袋を外しながら、奥に控えた昌聖と、目の前の美咲に声を掛ける。

 昌聖は、奥から大型の鞄を3っつ押しながら現れた。
 鞄の中に歩美と美由紀を詰め込んだが、佐知子がどうしても入らない。
「仕方ない、佐知子は俺が運ぶ。昌聖二つ頼むな、美咲ちゃんは空箱お願い」
 指示を出し、奥にある地下駐車場直通の専用エレベーターへ向かう。
 6人を載せたワンボックスが地下駐車場から滑り出し、宗介の家に向かう。
 昌聖と美咲は、余りの手際の良さに宗介自体に恐怖と尊敬を同等に感じていた。
「ビックリしたか?こんな荒事は、中々しないが昌聖はこれぐらいで驚いてちゃ駄目だぞ」
 最初は2人に、後半は昌聖のみに言って聞かせる宗介。
 沈黙の中、車は宗介の家に到着し、3人をリビングに運び、床に横たえる。

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