僕の転機
MIN:作

■ 第5章 それぞれの変化2

 佐知子と美由紀は、先ず美咲の格好を見て驚いた。
 派手な赤いレザーのボンテージに身を包んだ美咲は、目線まで気弱な優等生のそれではなかった。
(美咲?よね…でも、あの目線は歩美のそれと同じよう…いや、もっと危険だわ…)
 佐知子の視線が、美咲の表情に釘付けになっているのとは別の理由で、美由紀も視線を奪われていた。
(美咲、綺麗…良いな。私もあんなの来てみたい…。そして、あの豚を虐めて…)
 妄想に囚われていた美由紀が、昌聖に視線を移した時、血の気が引いた。
 そこに、美由紀の知る昌聖は居なかった。

 そこにいる昌聖は、自分が密かに憧れる宗介と、同じ匂いを漂わせる危険な存在に変わっていた。
(何、あれ昌聖?気弱な豚じゃ…無くなってる…どう言う事?)
 昌聖を見て固まってるのは、佐知子も同じだった。
(駄目だわ…もう終わり。本当に諦めるしかない…。美咲で気圧されてるのに、昌聖迄あんな風になるなんて…。一晩で何があったの、変わり過ぎよみんな…)
 ガックリと肩を落とし、膝を着け正座する佐知子。
 そのままの勢いで、頭も下げ平伏する。
 美由紀は、3人の登場に固まっていたが、佐知子の動きに我に返り続いて平伏する。
 二人の前に、悠然と歩いて来た美咲が立ち止まり、美由紀達に声を掛ける。
「顔を上げなさい」
 声を聞き、跳ね上がるように顔を上げる佐知子と、普通に顔を持ち上げる美由紀。
 美由紀が顔を上げ切った時、その頬がパチーンと鳴った。
 美咲が何の躊躇いもなく、フルスイングのビンタを美由紀に叩き込んでいた。
「遅いわ。愚図は嫌いよ」
 美咲を一瞥する事もなく淡々と発する言葉に、佐知子は震えた。
(何で、こんなに恐ろしく変われるの…。許して…怖い…)
 佐知子は、危険をいち早く感じて震えたが、頬を打たれた美由紀は、キッと美咲をにらみ返した。

 それを、見つけた美咲は、表情一つ変える事無く、美由紀の床に着いた手の甲に、ピンヒールを載せ、右手で髪の毛を鷲掴みにし引き上げた。
「いーっ、痛い痛い痛い!どけてどけてーーっ!」
 痛みに悲鳴を上げる美由紀を無視し、ユックリと言い聞かせるように美由紀に話し出した。
「良い。美由紀は、私達の奴隷なの。奴隷はね、決して御主人様を睨んだりしちゃ駄目なの解る?…解ったら返事をなさい」
 ピンヒールの加重と、髪の毛を引き上げられる痛みに堪えながら。
「解った、解ったから早く足をどけて」
 美由紀が喚くように懇願した。

 しかし、美咲の力は、一向に緩まろうとしない。
「奴隷の下品な鳴き声は、主人の耳には届かない事を知らないようね」
 薄く微笑みを浮かべ、重心を寄せながら顔を美由紀に近づける。
 今まで以上の加重が手の甲に掛かり、美由紀の手の甲に血が滲み出した。
 手の甲を襲う余りの痛みに、美由紀が悲鳴を上げ
「解りました御主人様、お許し下さい二度と逆らいません!お願いします許して下さい!」
 美由紀が、泣きながら謝罪の言葉を吐いた。
 ピンヒールを手の甲からどけ、左手で髪の毛を掴み直し、真っ直ぐな位置まで戻すと、美由紀の頬をパシーン、パシーン…3往復のビンタが襲い、昨日に引き続き鼻血を出す美由紀だった。
「余り、私の手を煩わせないでね」
 美由紀の髪の毛を放した美咲が、何の感情も込めず言う。
 美由紀は、力なく平伏すると
「すみませんでした」
 嗚咽混じりに、詫びの言葉を言う美由紀を、無表情に見下ろし
「良いわ、顔を上げなさい」
 再び同じ命令に、弾かれたように顔を上げる美由紀。

 此の時初めて、美咲の表情が変化した。
 ニッコリと笑う笑顔は、驚くほど冷酷だった。
 そして、二人の真ん中に立つと、自分の考えを奴隷達に聞かせる。
「良い、私に取ってお前達は、何の価値もない物なの、だからお前達に何をするにも、物として扱うわ。だから精々壊れないようにして頂戴ね」
 二人に一瞥をくれて振り返り、昌聖の横に歩いて行く。
「こんな感じで宜しいでしょうか」
 昌聖にのみ聞こえるような小声で、ソッと耳打ちする。
 昌聖は、グイッと顎を引き、大きく頷く。
 途端に、美咲に蕩けるような笑顔が浮かんだ。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊