僕の転機
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■ 第6章 回り出す歯車4

 ウルウルと涙を浮かべながら、唇を噛む佐知子。
(馬鹿!私の馬鹿…舞い上がって、昌聖様を…今までで初めて私を女として、気を使ってくれた…そんな人に…初めての人に……馬鹿…)
 そして激しい自己嫌悪に、嗚咽を漏らしながら床にくずおれていった。
(フフフッ暫くこのままで放っておくか、多分自己嫌悪に陥ってるんだろうし…だけど、こうやって見る気持ちを、少し引くだけで、物事って面白いくらいよく見えるんだ…これが宗介さんの見てる世界か…いや、多分もっと広い視野なんだろうな……いつか僕もその位置に立ってみたい)
 自分の考えに没頭する昌聖。
 その心の多くを占めるのは、久能宗介という人物に対する憧れと、過去の自分の愚かさに対する怒りだった。
 リビングに、佐知子の嗚咽だけが、延々と響いていく。

 時を少し遡り、風呂場に向かう美咲と美由紀。
 両手を後ろに拘束され、豊かな乳房を床に擦り付ながら、這い進む美由紀の後ろから、美咲が表情のない眼で見下ろす。
(どうしたら、こいつを昌聖様に心酔させる事が、出来るかしら…苦痛と恐怖だけじゃ駄目ね…何かこう…解らせるような…)
 美咲は、昌聖がどうすれば美咲を籠絡できるかを必死に考えていた。
(駄目だわ、やっぱり私なんかじゃ計画して行動するなんて出来ない…出たとこ勝負だわ)
 暫く考えてみたが、良い案が出ずにバスルームの前に着いた。
 美由紀は既に汗だくになって、肩で息をしている。
 美咲は美由紀の髪の毛を掴むと
「ボーッとしていないで立つのよ」
 力一杯引き上げながら、静かに命令した。
「お風呂に入ったら、二人っきりに成れるわ…楽しみね」
 美咲が唇の端を歪めて笑う。

 美由紀はその表情に初めて、美咲が自分の知ら無い人物に変わっていたことを感じた。
 美咲に促され、バスルームに入る美由紀。
 入った瞬間その広さに圧倒されて、声も出ない美由紀に、美咲が説明した。
「此処のお風呂とっても広いでしょ…何の為だか、この家の持ち主を考えれば解るわよね」
 耳元で囁く美咲の声に、ブルブルと震えながら頷く美由紀。
「さあ、良い子ね私を楽しませて頂戴…どんな大きな声を出しても構わないわ。この家の各部屋は完全防音になっているから」
 美咲が当てずっぽうに、ブラフで言った言葉は、実は本当だったと後に知らされる。
 美咲は洗い場の真ん中に美由紀を正座させ、湯船の縁に腰掛け手桶で湯船のお湯を掻き回しながら、美由紀の表情を楽しんでいる。
 全裸に拘束具を付けた美由紀と、赤いボンテージを纏ったままの美咲。
 そのコントラストは、とても淫猥に写る。
「良い事、今から30秒間美由紀が、声を出さなかったら。さっきの事は忘れて上げる。…良い?…」
 俯いていた美由紀が顔を上げ、美咲に顔を向けるとコクンと頷いた。
 美咲はそれに満足げに頷くと、美咲の顔に向かって手桶で湯船のお湯をかけ出した。
 美咲の攻撃は、美由紀の顔面をねらい容赦なく続いた。

 美由紀は宗介による、調教のトラウマと戦いながら、それに必死に耐える。
 顔に掛かるお湯に、パニックになりそうになるのを、必死に押さえ、美咲という恐怖と戦っている美由紀。
 美由紀は、必死に30秒を耐えた。
 美咲が手桶を手放し、美由紀に近づくと
「よく頑張ったわね。これでさっきの事は忘れて上げる」
 と言いながら美由紀の拘束を解いた。
 そして、美由紀の前に洗面器になみなみと満たされたお湯を置き、優しく美由紀に告げる。
「この中に顔を、突っ込んで30秒我慢できたら、貴女の知りたい事を一つだけ、教えて上げる。試してみる?」
 美咲が、穏やかだが射抜くような目線で美由紀を見詰め、静かに言った。
 美由紀は恐怖を浮かべ美咲を見、洗面器を見詰め想いを固め、美咲に視線を戻し力強く頷き、
「やらせて下さい」
 短く答え、顔を洗面器に突っ込んだ。

 今現在、美由紀の水に対する恐怖は、尋常な物ではない筈である。
 しかし、それ以上に美由紀は知りたかった。
 目の前にいる、少女の変化と、同じように…いやそれ以上に変わった少年の変化の理由を。
 拘束を解かれた美由紀は、洗い場で洗面器に顔を突っ込んだ、土下座のような格好で、必死に我慢している。
 昨日何度も溺死しかけた、少女の一大決意だった。
(この子やっぱり意地っ張りなのね…自分が納得しなければ、何処にも進めないんだわ…)
 美咲は一昨日まで自分を虐めていた、少女に強い憐憫の情を浮かべた。

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