僕の転機
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■ 第6章 回り出す歯車6

 沈黙が長く続き、話をもっと聞きたいと思った美由紀が、口を開いた。
「それは、私にも見つける事が、出来るのでしょうか」
 カラカラに渇いた喉のせいで、掠れた声を出しながら、美咲に聞く。
 美咲は、顔をスッと持ち上げるとまた先程の無表情になり、そのまま立ち上がって
「話しすぎたわ。後がつかえてるから上がるわよ」
 湯船を出て、脱衣場に向かって歩いた。
 慌てて湯船を飛び出し、後を追う美由紀。
(えっ、答えてくれないの?どうして…此処まで話してくれたのに…私には、無理って事かしら…)
 戸惑いの表情を浮かべ、四つん這いで脱衣場に出ると、美咲は軽く身体を拭きバスローブを着て、自分が使ったバスタオルを美由紀に放り投げる。

 美由紀は、バスタオルを受け取り、濡れた頭をゴシゴシと擦っていると
「美由紀は、もっと自分の心に正直になれば、或いは見つけられるかもね…」
 美咲の声が小さく届いた。
 驚き、タオルを取って見上げるが、もう美咲の口から言葉が流れる事はなかった。
(自分の心に正直に…)
 美咲の言葉を心の中で反芻する美由紀。
 美咲は、新しいバスタオルを1枚と、女王様の衣装を持ちリビングに向かう。
 美由紀がその後に拘束具を咥え、付いていく。

 リビングに入ると、佐知子は床に突っ伏して嗚咽し、昌聖はソファーに深くもたれ掛かり、頭を押さえていた。
「昌聖君、上がったわよ…」
 一瞥をくれて、伝える美咲に
「あ、ああ…ありがとう…」
 頭を持ち上げながら呟く昌聖。
 立ち上がった、昌聖が足下の佐知子に声を掛ける。
「行くよ…付いておいで…」
 その声に小さく[ハイ]と答えながら、佐知子が身を起こし項垂れたまま、四つん這いで昌聖の後に付いて行く。
 無言でリビングを後にし、バスルームへの廊下を進む昌聖達。
 リビングからは、美咲が指示をして、ボンテージスーツの手入れを美由紀にさせる声が漏れている。

 バスルームに着いた昌聖は、佐知子を促しながら
「先に入って、中で待ってて…脱いだら直ぐ僕も行くし」
 浴室への扉を佐知子に開いてやる。
 何か言いたげに、濡れた瞳を振るわせ昌聖を見上げる佐知子は、昌聖のそらした視線に、言葉を飲み込み項垂れ、浴室に入って行く。
 佐知子が浴室に消えた事を確認し、洋服を脱ぐ昌聖は、先程の沈鬱な表情を消し、無表情に戻って、これからの方針を考え出した。
(さて、そろそろ助け船を出さないと、逆効果に成り兼ねないな…少し、使ってやるか…)
 考えをまとめた昌聖が、浴室の扉を開き中に入ると、洗い場の真ん中で正座し、平伏して佐知子が待っていた。

 昌聖はそれを見ると、急ぎプランを修正する。
(このようすなら、もう少しソフトに責めた方が効果的だな…)
 頭の中でプランを一瞬でまとめ上げ、佐知子の頭の前まで足を運び、膝を着いて佐知子の肩に手を載せ話しかける。
「佐知子…顔を上げて…」
 昌聖の言葉に、首を振り必死な声で佐知子が、その心の中を語った。
「昌聖様!どうか先程の、愚かな佐知子の行動を、お許し下さい!昌聖様のお気持ちを考えず、自分の世界に浸ってしまった、愚かな佐知子をお許し下さい!」
 佐知子はそう言いながら、さらに床に頭を擦り付け、続ける。
「佐知子は、ずっと夢見ていました。酷い仕打ちを受けながらも、誰にもされた事のないキスを、自分の望む形でして貰うと言う、愚かな夢でした。それを…それを、今日望む以上の形で実現して頂きながら、結果的に昌聖様を傷つける事をしてしまった。愚かな佐知子に、罰を…罰を与えて下さい!…そして…出来る事なら…昌聖様のお許しを…頂きたいのです…」
 最後の方は消え入りそうな声で、佐知子が告白した。
(へーっ…あんな事をされながら、ファーストキスって有り得るのか?まあ、汚いと思って唇なんか合わせられなかったのが、本当の所だろうけど…僕の都合の良いように、転んだみたいだな。此処は、もう一押し…)
 歪んだ笑みを浮かべながら、昌聖が優しく佐知子に囁く。
「もう良い、もう良いんだよ…そんな事情があったなんて、僕も知らなかったし。佐知子への誤解も解けたから」
 昌聖の言葉に、首を左右に振ると
「罰を!罰を与えて下さい!」
 頑なに罰を欲する佐知子。

 昌聖は、そんな佐知子の態度に苛立ちを感じたが、立ち上がりお尻の方に回ると
「佐知子の気が済むためなら、罰を与えるよ」
 そう言って、お尻に勢いよくビンタを降らせた。
 バッチーン!浴室に大きな音が響く。
 昌聖はさらに振りかぶり、反対側にも降らせる。
 バッチーン!同じ大きさで同じ質の音が響いた。
「さあ、これからお前を使ってくつろいでやる。用意しろ」
 昌聖が佐知子の、上体を起こさせる。
「有り難うございます。昌聖様」
 大きな声で礼を言うと、勢いよく身体を上げる佐知子。
 その顔は、赤く紅潮し涙の跡が付いていたが、満面の笑顔をたたえていた。
「よし、じゃぁ佐知子は浴槽に上体をお湯から出して入れ」
 昌聖の指示に、素早く動き湯船に身を滑らせる佐知子。

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