僕の転機
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■ 第6章 回り出す歯車8

 時間を遡って調教部屋の2人。
 宗介がソファーに腰を掛け、3m程離れて歩美が座っていた。
 歩美は殊勝な顔をして項垂れている。

 正座をするでもなく、只座っている。
「そろそろ良いだろう、もう誰も見ていない…それに、俺はお前の心の中を理解している…」
 宗介が唐突に、話し出しす。
 すると、歩美が顔を上げキッと睨み付ける。
「そうね貴男には、バレてるって解っていたわ。でも、私の心が揺らぐ事は有り得ない!必ず、この屈辱を晴らしてやる」
 歩美が血を吐くように睨み付け宣言した。
「どうやって?」
 宗介が、惚けるように言うと
「どんな手段を使ってもよ!」
 歩美がすぐさま切り返した。
「君のお父様は、君に俺がどう言う人間か教えなかったの?」
「聞いたわ!でも、それが何よ!私が従わなければならない理由には成らないわ」
 歩美の言葉を聞き、フッと笑って言葉を続ける宗介。
「じゃぁ、君はその何の根拠もないプライドのために、5,000人の生活を犠牲にする訳だ…」
 そう静かに告げる。

 微笑みを浮かべる宗介をキッと睨み付け
「貴男のような卑怯な人間に、私は決して屈服しないわ」
 歩美は、胸を張って言い切った。
「くっくっくっ…俺の何処が卑怯なんだい?」
 宗介は笑いを漏らしながら、歩美に質問する。
「卑怯じゃない!人の弱味を握って自分の意のままに動かそう何て…」
 歩美は自分で言った言葉に、黙り込んだ。
「じゃぁ、自分を見下した人間が許せなくて、嫌らしい写真やビデオを盾に、3ヶ月間も陵辱する人は卑怯じゃないんだ…」
 宗介の指摘に、言葉を詰まらせる。
「それは…。貴男と私では、社会的立場も状況も違うわ!」
 必死に抗議する歩美。
「自分は、都合の良い時だけ権力を使って、他人が使った時は卑怯者扱い…。どれだけ都合が良いんだお前は…」
 語尾の方に、怒気を含みながら宗介が言うと、ビクリと震える歩美。

 だが、震えながらも宗介を睨み付け
「声を、声を荒げれば、私が黙ると思わないでね!」
 金切り声で、歩美が叫ぶ。
「OK、じゃぁ。君と俺とでどちらが、悪い人間だか比べてみよう」
 宗介は軽く手を広げると、静かに質問しだした。
「君は、人を使い昌聖を騙した。間違いないね?」
 静かに、歩美に話しかける。
「だから何なのよ…昌聖も騙される方が悪いんじゃない…」
「君は、その騙した事を元に、昌聖を脅迫したね?」
「そんなの、あいつも良い思いしたんだから、おあいこでしょ…」
「ふうん、君は知らないんだ。ペニスバンドがどれだけの苦痛を産むか、高校2年生で30万円を作る事がどれだけ大変か、徹夜して淫具を作らされ、それが想い人に使われる苦痛を…」
(真性のサディストが、屈服させられるストレスを…って言うのは止めとくか)
 宗介は、言葉を飲み込み歩美を見詰める。
「そんなの、貴男には関係ないじゃない!」
 歩美が、宗介の言葉を否定する。
「そう、俺本人には関係ない。だけど、昌聖は子供の頃からの知り合いだ、家族付き合いも頻繁に行っていた。言わば弟のような存在だ」
 言葉を句切り、ジッと歩美を見詰める宗介。

 歩美は、ワナワナと唇を振るわせ、反論する言葉を探している。
「そんな、弟分の窮地を俺が手助けしてやる事に、何の躊躇いがある?」
 宗介の静かな言葉に、歩美は声を荒げながら、反論する。
「何よ、あんな変態の使う物を売ってるような店の奴に、何で社長令嬢の私が跪かなきゃ成らないのよ!」
 歩美が、完全に見下した言い方で、昌聖をなじる。
 宗介は、歩美の言葉に目を瞑り溜息をつく。
「それじゃ歩美も充分変態じゃないか?お前も昨日使って感じたろ?」
「あれは、無理矢理着ける貴男が悪いんで有って、私には責任は無いわ!」
 宗介の質問に、そっぽを向きながら答える歩美。
「しかし歩美の理屈では、無理矢理着けられても、感じたら変態なんだろ?」
「違う!着ける方が変態なのよ!」
「じゃぁ、やっぱり歩美は変態だ…美咲に強制的に着けたのはお前だろ?」
 宗介の意見にぐうの音も出ない歩美。
(この男、本当に腹が立つわ!ああ言えばこう言うし、こう言えばああ言う…見てらっしゃい)
 歩美は、宗介に対して対抗心を燃やす。
「何なのよ貴男は、男の癖に愚痴愚痴人を責め立てて、そんなに私を負かしたいの!」
 癇癪を起こして金切り声を上げる歩美に
「今までお前の周りには、お前がそう言えば、遠慮をする人間ばかりだったんだろうな…だが此処では、そうはいかない」
 グサリと真理を貫かれて歩美がたじろぐ。
「俺は事実、お前よりも強大な力を持っているし、お前を論破する知識も、経験も持っている。そして何より…、お前に対してそれらを使う事に、何ら躊躇うなと俺の心が言っている…」
 歩美は、自分に分が悪い事を理解していたが、そのプライドが邪魔をして折れる事が出来ない。
「なによ、私に何をするって言うのよ!」
 歩美は精一杯の虚勢を張り宗介に叫ぶ。
「お前は馬鹿か?物わかりの悪い女だな…最初から言ってるだろ。お前がしてきた事、お前がしようとしてきた事を、お前が経験するんだ」
 宗介の言葉をまるで死刑宣告を受けたような表情で受け止める。
「そんな事…そんな事、お父様が…」
 言いかけた時、歩美は初めて自分の逃げ場が一切無い事を実感した。
「自分の立ち位置に、ようやく気が付いたようだな…。お前には、物理的逃げ場も、精神的逃げ場も与えない…。身をもって味わえ」
 宗介がそう宣言すると、泣き崩れ
「嫌よ、許して…お願い…」
 震えながら小さく繰り返す。
「今まで歩美の前で、何人の女の子がその台詞を言った?…その中で、一度でもお前はその意見を聞き入れたか?」
 宗介の声にビクリと震え、首を振り
「でも、でも。私には、そんな事無理…」
 顔を上げ、泣きながら懇願する。

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