僕の転機
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■ 第6章 回り出す歯車9

 歩美の言葉を聞きながら、込み上げてくる怒りを抑える宗介。
「お前は何様だ?…」
 宗介が静かに口を開く。
「自分の未成熟なプライドを盾に、子供が動物を嬲るように他人を傷つける…。そしてそれに対する、悔いも償いもしない」
 宗介は、ユックリと顔を上げ、真正面から歩美の瞳を覗き込んだ。
 宗介の視線に射抜かれた歩美は、身動ぎ一つ出来ないで居る。
「お前は、自分を知らな過ぎる。お前の持つ強者の理論がどれだけ危険か…。それを使うお前がどれだけ幼いかを…」
 宗介の姿勢は変わらず、その雰囲気のみが圧倒的な獣性を発散し出す。
 歩美は、目の前にいる宗介が、突然巨大な肉食獣に変わったように感じ、その身体を小刻みに震わせる。
「俺からお前に、生涯決して忘れられない日々をプレゼントしてやろう…」
 宗介は、唇の端を吊り上げ軽く笑う。
 歩美には、その表情でそれが自分にとって、決して抗う事の許されない日々である事を理解した。

 宗介は冷ややかに歩美を見詰め、口を開く
「先ずは、お前のその稚拙なプライドを砕いてやろう。自分がどれだけ取るに足り無い、存在か教えてやる」
 宗介はそう言うとソファーを立ち上がりインターホンまで行き、昌聖達を呼んだ。
「まずは、お前の本質をはっきりさせてやろう」
 暫くすると、調教部屋に昌聖達が現れた。
「宗介さん、どうかしたんですか?」
 昌聖は、秘密の調教でもしたのかと疑っていた、しかし宗介の雰囲気を見て口を閉じた。
「佐知子、美由紀。歩美をモニターの前で抑えてろ。歩美お前は、視線を絶対にそらすな!少しでも反らしたら、お前の家族には莫大な借金を背負わせてやる」
 宗介の放つ威圧感に、誰一人声を出せなく成っている。
(宗介さん…どうしたんだろう…凄い迫力…と言うか、おっかねー!みんな、びっくりしてる…)
 昌聖は、背中に冷たい汗が流れているのを感じた。
「みんな、見ていろ目の前にいる、この女の本当の姿を見せてやる」
 そう言うと、リモコンを操作し映像を映し出した。

 その映像は、スチールの餌皿にご飯が入っている物のアップだった。
 『歩美こっちに来い』モニターから昌聖の声と『はい…』歩美の声が流れる。
 歩美には、この状況の記憶が無い。
 訝しみ首を傾ける歩美に、モニターの昌聖が信じられない指示を出す。
 『歩美皿を跨げ、跨いだら中に小便をしろ』その指示に躊躇う事無く『はい…』と従う歩美。
(何?この映像は、いつの物?全く記憶に無いわ…)
 自分の記憶に無い映像に戸惑いを隠せない歩美。
「いや、駄目…何をしてるの…い、イヤーッ」
 歩美は、映像を見て叫んだ。
 モニターの中の歩美は昌聖の指示通り、餌皿を跨ぐとその中に小便を始めた。
「ちゃんと見ろ!目を逸らすんじゃないぞ。お前の一族がどう成るか思い出せよ」
 宗介の叱咤に、伏せかけた顔を止め元の位置に戻す。
(歩美まだまだ甘いわよ。惨めなのは、これからなんだから…)
 美咲が、酷薄な笑みを浮かべ歩美を見下ろしている。

 小便が終わり、自分の手で処理をする場面でまた叫ぶ歩美。
「佐知子。お前虐めにあってる時こんな事、経験させられたか?」
 突然名前を呼ばれた佐知子は、
「これをした事は有ります」
 驚いて即答する。
「どんな気持ちだったか、覚えてるか…」
「はい…死ぬほど悔しかったです」
 佐知子が当時を思い出し、目を伏せる。
「歩美の顔を見ろ…あれは、悔しそうに見えるか?」
 宗介の問に首を振り否定する佐知子。
「少なくとも、羞恥を感じているようには見えません」
 はっきり断言する佐知子。
 モニターには、もう一人の登場人物が映り、昌聖がまた指示を出す。
 排便シーンをひたすら見ている歩美に下される次の指示を全員が想像出来た。

 そして、想像通りの指示が飛びそれを躊躇無く実行する歩美。
 モニターの前の歩美は思考が停止したような表情をしていたが、次に下された指示に気が触れたような声を出し首を振る。
「イヤーッ!止めなさい!止めるのよーッ!」
 既に、起こった映像を懸命に制止する歩美。
 モニターの中の歩美は、指示に従い餌皿に顔を伏せる。
 湿った物を咀嚼する音がモニターから流れる。
「佐知子、これを経験した事は、有るか?」
 再び宗介の質問が佐知子に投げかけられる。
「流石に、これは有りません…」
 その光景の壮絶さに佐知子と美由紀は、震えている。
(これを命令されるぐらいなら死んだ方がマシだわ…人として終わってる…)
 美由紀は、歩美にソッと視線を向けると、モニターに映る自分を大粒の涙を流し、唇をわなわなと振るわせていた。

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