僕の転機
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■ 第8章 変わりゆく関係4

 1時間もすると、フラフラと移動もおぼつかなくなっている。
 そんな、歩美に「早く来い」「腰の振りが疎かになって居るぞ」と言葉を叩き付ける3人。
 もう、歩美の顔はグシャグシャだ、汗だくで痴呆のように口を半開きにし、涎を垂らしながらブツブツと何かを呟き、目は光を失い宙を彷徨っている。
 それでも、呼ばれた主の前に行きポーズを取り台詞を唱える。

 さらに30分程経った時、何の表情も浮かべられなく成った歩美が、パタンと倒れて動かなく成った。
 時計を見て昌聖の方に歩いてきた宗介は
「止める時は合図するからお前が止めろ」
 小さく言って歩美の元に歩み寄った。
 歩美の様子を見ていた宗介は、立ち上がり尻を鞭で叩きながら
「誰が、寝て良いと言った!起きろ!」
 怒鳴り、髪の毛を掴んで引き上げた。
「すみません、おゆるしくださいごしゅじんさま…」
 力なく答え、また四つん這いに成り、フラフラと移動を開始した。
 しかし、10分もするとまた、パタリと倒れる。
 この調教を見守る、佐知子は血の気が引いた顔で、
(この調教は、心を砕くための物だわ…。こんな事をされたら、歩美だって普通じゃ居られない…)
 その内容の過酷さに、震え上がっていた。

 宗介が近寄り、さっきのように引き起こすが、昌聖の方に向かって頷く。
「今日の所は、許してあげようよ。これ以上の責めは、歩美を壊しちゃう」
 その場を止めた。
 歩美の表情からは、意志が無くなり、呆然と昌聖を見つめる。
 宗介の終わりを告げる声も、歩美の耳には届いていないようだ。

◇◇◇◇◇

 調教が終わり、身につけた器具を外される歩美は、一切の思考が停止していた。
「美咲ちゃん、さっき言った事宜しくね」
 美咲に、美由紀のフォローを頼み、昌聖の方を向く。
「解りました。じゃあ行って来ますね」
 美咲は、昌聖を見てペコリと会釈をする。
 昌聖は、何の事だか解らなかったが、自分だったら美咲をどう使うかを考え、宗介に向かい唇を美由紀と動かした。
 コクリと頷き、宗介が歩いていく美咲に目を向ける。
 美咲は、調教部屋を出て行く所だった。

◇◇◇◇◇

 時間は遡り、歩美の調教前。
 美由紀は自宅に着き、靴を脱いでリビングに向かう。
 リビングのテーブルの上には、母親の書き置きと1万円札が1枚。
 書き置きの内容は、見なくても判る。
 お金だけを、持って2階へ上がる。

 スカートを脱ぎ、くつろぎながら美咲の言った事を、また思い出す。
(感情で話しちゃ駄目よ…。真剣に考え、求めてからでも、遅くはないわ…。少なくともあと数日…)
 意味は解る。
 しかし言った人間が、少し信用できなかった。
(美咲さんは、どう言うつもりで言ったの…?どんな気持ちなの…?知りたい…。でも教えてくれる訳は無いわね…)
 膝を抱え、ベッドで悶々としていた美由紀は、自分の携帯が遠くで鳴っている事に気付く。
 辺りを見回し、携帯を探すが見あたらない。
 途中、時計が目に入り時刻を見ると、帰って来てから3時間近く経っていた。
(はっ!リビングに置きっぱなしだ…。でも、誰からだろう…?佐知子も歩美も…、チームのみんなも…、掛かって来る筈無いんだけど…)
 美由紀は、リビングに行き携帯を取り上げ、着信履歴を見る。
 そこには、今、最も話したい人間の名前が記されていた。
 美由紀は、即座にリダイアルを押す。

 コール音が二つ鳴ると、相手が電話に出る。
「もしもし、美咲さん?あの、電話戴いたようなんですが、今大丈夫ですか?」
 美咲に対して、敬語で話す美由紀。
『美由紀さん。私、愚図は嫌いなの…?…でも。貴女には、言わなきゃいけ無い事が有るから、我慢するわ。今から合える?』
 美咲の申し出に、1も2も無く応じる美由紀。
「はい!構いません。何処に行けば良いでしょうか?」
 必死に話す美由紀。

 既に、人間的上下関係は逆転していた。
『あら、私は何処でも構わないわ。ただ、出来るだけ人目には、付きたくないはね…』
 美咲の言葉に即座に答えるる
「なら、私の家ではどうですか?両親も帰ってきませんし…」
 自分で言って[しまった]と思った。
 今まで一度も来た事がない家で、しかもこの前まで敵対関係と言って良い程の間柄だったのだ、来る筈が無い。
『良いわよでも、私は貴女の家を知らないわ、案内してくれる?』
 驚きの美咲の言葉に、慌てて受け答えする美由紀。
「今どこですか?直ぐに迎えに上がります」
 美咲は、電信柱に記載された住所と、目に見える建物の名前を告げた。
「それなら1分で行けます。真っ直ぐ歩いて頂けたら、30秒で合流します」
 美咲は真っ直ぐ歩いて来ると告げ、電話を切る。
(どうしよう、どうしよう…。美咲さんが来る…!話を聞けるのは良いんだけど…。だめ!早く行かなきゃ)
 美咲は、玄関まで走り、自分の下半身が下着姿なのに気付き、急いでリビングに戻って父親のジャージを履いて出かける。
(あ〜っバカバカ何でこんな格好で、でもとにかく急がなきゃ…)
 美由紀は、駆け足で曲がり角を右に曲がった。

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