僕の転機
MIN:作

■ 第8章 変わりゆく関係5

 すると、一本道の真ん中を街頭の光に照らされながら、美咲が歩いて来る。
 最初は小さかった影が、徐々にその輪郭と姿を、ハッキリとさせる。
(美咲さん格好いい…駄目!早く迎えに行かなきゃ)
 完全に、自分を見失っている美由紀は、走って美咲の元にたどり着く。
 息を切らせる美由紀に、美咲が
「そんなに急ぐ必要は、無いわよ。私は、今日じゃなきゃ、貴女に教える事が出来ない身だから…。本当は、携帯でも良かったんだけど…。電話は…、ねっ」
 そう言って微笑み掛ける、美咲はとてつもなく綺麗だった。
 ゴクリと唾を飲み込み、美由紀は美咲を案内する。
 美咲の姿と自分の姿を見比べて、恥ずかしさが込み上げてくる。
「ここです。どうぞ、お入り下さい」
 美咲を丁寧に自宅に招き入れる。
「お邪魔します」
 ペコリと、頭を下げ玄関を通る美咲。
(凄いなぁ〜、全ての動作が格好いい…。ううん…、色っぽいのかな?…でも…。凄いのは確かだ!)
 マジマジと見ていた美由紀に気付き、美咲が何か?と言う表情を作った。
 ブンブンと首を振りリビングに通す。

 ソファーに腰掛ける美咲に
「何か飲みますか?」
 聞く美由紀。
「いいえ。直ぐにお暇しますから」
 軽く否定する美咲。
 ガックリ肩を落とす美由紀に
「用件を伝えても良いかしら?」
 切り出す美咲。
「は、はい!はい!どうぞ」
 美由紀は緊張しだした。
「そんなに緊張しないで。今日は、貴女の契約期間が終わる12時まで、私は貴女に物を言える、立場の人間として来ました」
 美咲が切り出した言葉に、居住まいを正す美由紀。
「今日。貴女は、調教中に一つの答えを見つけましたね…?それは、私の主人も確認されました。だけど、それを恒久的に維持するのは、とても難しい事だと解って下さい…」
 居住まいを正す美由紀を無視し、美咲は淡々と話し始める。

 一旦話を終えた美咲は、スッと視線を美由紀に向け
「今現在。貴女の目から見て、私はどう映りますか?」
 突然話しを変え、美由紀に問い掛けた。
 美由紀は、美咲の質問に慌てて答える。
「とても、凜として。すばらしいと思います」
 美由紀の答えに、美咲は悲しそうに首を横に振り、溜息を吐いて。
「私は、御主人様に誓った事の20%もこなせていない、愚図な奴隷なの…。自分で誓って置きながら、何一つ満たす事が出来ていません」
 美咲の答えに驚愕する美由紀。
「貴女が、今日見つけた答えは、恐らく間違えてはいない…。ただ、それを維持し育てて行く為には、これからの人生。全てを投げ出さなくてはいけません」
 静かに話す美咲に、飲み込まれる美由紀。
「明日になれば、貴女には新しい日常が有ると思います。私達の非日常には、覚悟を決めてから触れて下さい。それが、今日貴女にどうしても言いたかった事です」
 静かに、頭を下げソファーから立ち上がる美咲を、引き留める事も、質問する事も出来ず見送る美由紀。

 玄関の扉を前にして、美咲が振り返り。
「日常でも言葉と態度には、全て意味が有りますよね。私達の世界は、それをどれだけ、敏感に感じ取れるかがとても重要。憶えておくと良いわ…」
 それだけ言い残すと、玄関の扉が開き、美咲が外に出て行き、静かに閉じる。
 美由紀は、その日朝が来るまで、玄関先で膝を抱えていた。
 美咲に言われた言葉を、繰り返し思い浮かべながら、一睡もせず。

◇◇◇◇◇

 時は遡り、美咲の出て行った調教部屋では、昌聖が佐知子を、宗介が歩美の世話をする事に成っていた。
「じゃぁ、宗介さん。僕は、佐知子にご褒美上げてくるね」
 昌聖がそう言い立ち上がると、歩美の方をチラチラ見ていた佐知子が、その後に付いて行く。
 取り残された歩美に宗介が近づく。

 歩美は依然として、視線をボーッと飛ばし、呆然としている。
 そんな歩美をコツンと一蹴りして、顎をしゃくり隅の水道に誘導する。
 歩美が宗介の後に、付いて隅の水道に辿り着くと、ホースの蛇口をおもむろに捻り、冷水を頭から浴びせる。
「お前は最下層の奴隷だから、これでも贅沢だと言う事を、憶えておけ。感謝しながら水を浴びるんだ」
 宗介の言葉に、ただひたすら平伏し、水をかけ続けられる歩美。

 底冷えするコンクリートの冷気で、歩美の歯がカチカチと鳴る。
「どれ、匂いは取れたか…」
 宗介が歩美の身体に、顔を近づける。
 冷水を掛けられても、身体全体に掛けられた、小便の匂いはそう易々と消えない。
「ちっ、こんなモンじゃ落ちやしない」
 そう言いながら、宗介は近くに置いてあったロッカーの中から、50p程の細長いタンクが2個付いた、機械を取り出しホースのノズルをセットする。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊