僕の転機
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■ 第8章 変わりゆく関係12

 続いて、トリートメントを手にし、歩美の髪の毛に塗り込んで行く。
 暫く馴染ませ、またお湯で洗い落とす。
 何度も何度もお湯を掛け、トリートメントを丁寧に洗い落とす昌聖。
「終わったよ、そろそろ出るよ…」
 昌聖が歩美に声を掛けると、歩美は俯いて震えている。
「どうした?歩美?」
 昌聖が問い掛ける。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。ごめんなさい…」
 歩美は、泣きながら謝っていた。
「そう思うんだったら、ちゃんと罰を受けて。許して貰うんだね」
 昌聖が歩美の頭をポンと叩き、
「さあ、出るんだ」
 命令する。
 歩美は項垂れたまま[はい]と小さく返事をし、浴槽から上がった。
 脱衣所で清潔なタオルで、身体を拭かれ、髪の毛も綺麗に水気を落とし、調教部屋に向かった。
 調教部屋には、調教下着が無かったので、そのまま衣装部屋に行き、歩美の洋服を見繕う。
 歩美に着替えるように指示し、自分は道具部屋に行き、合い鍵を探す。
 合い鍵を見つけ、服装を整えた歩美と合流しリビングへ向かう。

◇◇◇◇◇

 時を暫く戻して、美咲達。
 昌聖が出て行った後のリビングで、調教下着を探すが、見つからず、来た時のラフな格好を素肌に着けた佐知子が、何やら思い詰めている。
(チャンスは今しかないわ…今なら2人きりよ…聞くなら今しかない…)
 意を決して、美咲に話しかける。
「美咲様…。美咲様は昌聖様の奴隷だったんですね…」
 突然の質問に、少しの沈黙の後、美咲が佐知子に呟く。
「そうよ。私は、正式に奴隷になったの…。昌聖様と契約書を交わし。奴隷になったのよ…」
 美咲の答えに、佐知子はその足下に平伏し
「美咲様…。佐知子をどうか、お仲間の端にお加え下さい…。昌聖様をご主人様と仰ぐ事を、お許し下さい…」
 美咲の足下に、踞り懇願する佐知子。

 美咲は屈んで、佐知子の頬を両手で挟み上を向かせ囁く。
「昌聖様に仕えられるかどうかは、昌聖様の決める事。私に意見など無いわ」
 目の奥に妖しい光を湛えながら、佐知子の瞳を覗き込み。
「ただ。私は、意志を持たない持ち物だけれど。貴女達にされた事は、忘れてないわ…」
 美咲の言葉に、佐知子は瞳を濡らしながら応える。
「はい。私の忠誠は、昌聖様を1番に、美咲様を2番とさせて頂きます」
 佐知子がそう言った時、美咲が佐知子の頬を張る。
「馬鹿!何が有っても昌聖様の事だけを考えるの!中途半端な気持ちで仕えるなんて、絶対に許さない!全てを捧げるから、奴隷なのよ…。忘れないで」
 美咲の言葉に、フルフルと震え、涙する佐知子。
(美咲様有り難うございます…。佐知子は、心の中で忠誠を誓います…)
 佐知子から手を放し、立ち上がると。
「そろそろお戻りになるわ…しっかりしなさい」
 小声で佐知子に、注意を促す美咲。
「はい、申し訳ございません、美咲様…」
 佐知子は、涙を拭いながら立ち上がる。
「私は、佐知子みたいな、虐め甲斐のある、妹が欲しかったの…。認められると良いわね…。奴隷契約…」
 美咲の言葉に、満面の笑みを浮かべ、赤面しながら
「はい、努力します…!契約が成立したら、宜しくお願いします…。お姉様…」
 佐知子が、縮こまりながら、耳打ちする。

 こうして、奴隷達の上下関係が成立した。
 主人が、介在する前の出来事だった。
 美咲と佐知子が、そんな事を話しているとは、知る由もない、昌聖達は用事を済ませ、リビングに入って来た。
「美咲ちゃん…。上に調教下着来てない?下に無かったんだ…」
 昌聖がリビングに入るなり、質問する。
「いえ。私達も探してた所なの…。だから、佐知子は今下着を着けて無いんです」
 美咲が答えを返した。
「見つからないから仕方ないね、取り敢えず今日は帰ろうか…」
 そう言って立ち上がる昌聖に、全員が従い家を出る。

 昌聖が鍵を掛けようとした時、携帯が鳴る。
『昌聖悪い、言い忘れてた。調教下着は、調整に回した。それと、歩美に精神安定剤とM50って書いてある錠剤を飲ませてやってくれ』
 それだけ言うと、返事も聞かずに携帯を切る。
「何だよ一方的に電話切っちゃて…。美咲ちゃん、やっぱり下着は、今無いんだって…。僕中に戻って歩美に薬を飲ませてくるね」
 昌聖は、一旦閉めた扉をまた開け、歩美と共に中に入る。

 玄関で佇む、美咲と佐知子。
 美咲が佐知子に呟く。
「佐知子…。今日は、家に帰るの?…」
 佐知子は、美咲に答えを返す。
「それが、宗介さんの家に泊まるつもりだったから。友達の家に泊まると、連絡しました…」
 嘘を付く佐知子。
「そう。でも宗介さんの家には、泊まれ無く成ったわね…」
 美咲の言葉に[はい]と答える、佐知子。
「私と貴女は友達?」
 暫くの沈黙の後、美咲が佐知子に問うた。

 喉がカラカラに成って、掠れた声で、
「お姉様が宜しければ…。お友達で…」
 佐知子が、やっとの思いで口にする。
「そう、じゃぁ問題は無いわね…泊めて上げるから、いらっしゃい。場所は、知ってるわね…」
 美咲が、佐知子を妖しく見詰め、背中を向ける。
「はい、ありがとうございます…。美咲様…」
 変わりゆく関係に、赤く顔を染める佐知子。

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