僕の転機
MIN:作

■ 第9章 新たな日常1

 宗介の家を後にした4人は、それぞれが自宅に戻る。
 佐知子は、歩美と同じ方向だったが、今日の告白で一緒に帰るのは、気まずいと言う理由で、少し遠回りして帰ると言った。
 昌聖は、取って付けたような理由に、何か感じたが[好きにすれば]と黙殺した。
 そうして、4人はそれぞれの道を歩き出した。

 佐知子は、昌聖が離れていったのを確認し、美咲の家の方に走り出した。
 数分後、ゆっくり歩く美咲に合流し、呼吸を整えながら美咲に付き従う。
 美咲の家にお泊まりが決まった佐知子は、高鳴る胸を押さえて、美咲の後をついて行く。
(どうしよう…。考えてみたら、美咲様の御主人様に抱かれたいって告白するような物ね…。聞きたい事は有るけど…。答えてくれるかな?)
 佐知子の前を歩く美咲は、凜とした歩様で進んでいる。
(どうしようかな…?どうすれば、昌聖様が満足されるかしら…?今日の行為を見せたという事は…、佐知子も仲間にすると言う事よね…)
 美咲は、昌聖の奴隷としてこの後、自分取るべき事を模索していた。
 2人は、それぞれの事を考えながら、美咲のマンションに向かい歩いて行く。
 マンションに着き、エレベーターを下りると、美咲は部屋まで真っ直ぐ歩いて行く。
 扉を開け、部屋に招き入れた。
「有り難うございます。お邪魔します」
 佐知子は、怖ず怖ずと美咲の家に上がり込んだ。

 美咲の家に入った佐知子は、キョロキョロと辺りを珍しそうに見ている。
「どうしたの?何か珍しい…。取り敢えず座ったら?」
 美咲の言葉に佐知子が驚き
「い、いえ。有り難うございます…。あの、美咲様は一人暮らしなんですか?」
 佐知子が質問を投げかける。
「普段はね…。兄が居るけど、高校に入った時以来有ってないわ…。何処か、外国を転々としてる見たい」
 美咲が、コーヒーを入れながら佐知子に話す。
「凄いですね…。一人暮らしって良いですね…」
 佐知子が、憧れるように言う。
「そうでも無いわよ…。私みたいに、孤立した人間には、寂しいだけ…。悩みがあっても人に相談も出来ないし…」
 美咲が、コーヒーをカップに注ぎながら答える。
「私は、一人になれる時間が欲しかったです。誰にも干渉されない時間が…」
 佐知子は佐知子で、多くの悩みを抱えて生きてきた。
 それが滲み出るような言葉だった。
「そう、貴女の生い立ちを聞いて、同情もしたけど…。誰かを陥れて、良い理由には、成らないわよ…」
 コーヒーカップを佐知子に差し出し、冷たく言い放つ美咲。

 佐知子は、萎縮し美咲に詫びた。
「でも。もう良いわ…。私は、新しい自分を手に入れたから…。そんな事に構っていられない」
 美咲が佐知子に言い切った。
 佐知子は、顔を上げ必死の気持ちを顕わにし
「お願いします!美咲様のお仲間になれる方法を、教えて頂けませんか?」
 美咲に縋り付く佐知子。

 美咲はコーヒーを一口飲み、
「昌聖様は、何ておしゃったの?その様子じゃ、一度くらいは申し出たんじゃなくて?」
 佐知子の行動を見透かしたように、質問した。
「昌聖様は…。昌聖様は、私が酷い目に遭ってきたから、これ以上この世界に入ってくるなと…。両親が悲しむと…、おしゃいました」
 佐知子は、肩を落とし、美咲に風呂場で言われた事を正直に話した。
(昌聖様…。この女も、最初から仲間に入れるつもりだったのね…。それなら、私のする事は一つ…。主の思うが儘に…)
 美咲は、昌聖が単に焦らして居るだけなのを感じ、佐知子の心を蕩かせる方法を考える。
 美咲は自分の携帯を取りだし、有る物を佐知子に見せる。
「佐知子。これを貴女にだけ見せて上げる…。私の昌聖様に対する思い…。私の奴隷契約書よ…」
 そう言うと携帯のメモ機能に打ち込んだ、自分の奴隷契約書を見せる。
 佐知子は、渡された携帯のメモを必死に読み出す。

 全文を読んだ後、佐知子の瞳は情欲に濡れていた。
「美咲様…、羨ましいです…。こうやって…、全てを託せる方が直ぐ傍に居られるなんて…」
 佐知子は、美咲を羨望の眼差しで見、ソッと携帯を美咲に返した。
「佐知子も、奴隷契約書を書いても良いでしょうか…?昌聖様の心に反する事に成らないでしょうか?」
 佐知子は、縋り付くように美咲の手を握る。
 その手を振り払った美咲は、
「その考えが傲慢なのよ…。気付かない?佐知子は、昌聖様に拾われなければ、奴隷にならないの?それは、貴女が昌聖様に、奴隷にしろと迫ってるような物よ…![奴隷にして頂けないなら、うち捨てて下さい]そう思える様に成らなきゃ、何の価値も無いわ…。ううん、意味がない!」
 美咲に断言されて、佐知子の目から鱗が落ちる。
「意味がない…!そうです…、意味がないんです!私考え違えしてました…。心に決めた人の奴隷に成れ無いのは、私が不要な存在だと言う証になるんですね…!それぐらいの覚悟を込めなければ、相手にも思いは届かない…。私の都合じゃない…。御主人様の気持ちなんですね…」
 最後の方はブツブツと呟くように、納得する佐知子。

 コーヒーを飲みながら、佐知子の堕ちて行くのを見詰める美咲。
(昌聖様、もうじき新しいオモチャをお持ちします…)
 美咲はジッと、佐知子の顔を、見詰めている。
 佐知子は思いこみを、ドンドン深めて、従順な奴隷へと自ら熟成させて行く。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊