僕の転機
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■ 第11章 奴隷達の関係7

 歩美が宗介の家のインターホンを押す30分程前、宗介は有る人物が泊まっている、ホテルから車を出した。
「おう。俺だ…、村沢の拘束は出来たか?…よし、空港で間違いなかったろ…?何処に行くつもりだったかは、逐次報告してくれ」
 宗介は、携帯を切り、山田商事副社長の村沢和史の拘束を確認した。
 直ぐに別の番号をダイヤルし、別の相手と会話を始める。
「流出した株は、回収できたか?…おう、一株も奴らに回すな!全部回収しろ…。市場に出回っている物も、全てだ」
 指示を出した後、宗介は車を光陰学園に向ける。

 学園への途中、昌聖に何度か電話を入れるが、一向に繋がらない。
「昌聖…。電話に出ろ…!携帯の意味がないぞ…」
 宗介の顔には、珍しく焦りが色濃く出ている。
 途中渋滞に捕まりながら、光陰学園に着いたのは、歩美が宗介の家に着いた頃だった。
 学校内に入り、歩美の行方を捜す宗介。

 しかし、学校側も宗介に不信感を抱いて、それを教えない。
 正確には、学校側も居場所を特定できないのだ。
 宗介は、懐から警察手帳を出し、彼女の父親から保護を求められたと嘘を付く。
 学校側は、途端に掌を返し、歩美が学校から帰ったと告げた。
 踵を返して、学校を飛び出す。
(くそ!嫌な予感が止まらない…何処に行った歩美…)
 宗介は、先程から止まらない、予感に苛立ちすら憶えていた。
 宗介の調教師としての予感は、今まで外れた事がない。
 それ故、宗介の若さで、マスターの一人に成れたのだ。
 その予感が、警鐘を鳴らし続ける。

 インターホンを押した歩美は、宗介の家に招き入れられた。
 迎えに出たのは、全裸に首輪と尻尾をつけた美咲だった。
「ど、どうしたの…こんな時間に…」
 美咲は歩美の格好を見て、驚きながら尋ねる。
「はい…。学校は、自主休校に成りました。御主人様に調教を受けるため参りました」
 俯き、何の抑揚もない声で歩美が告げる。

 昌聖にも通すように言われていた美咲だが、歩美の態度に不審を憶える。
「で、どうしたのその格好…」
 腕組みをしながら、問いただす。
「学校から出る時、教室から水を掛けられました」
 変わらず抑揚のない声に、美咲は口を開こうとしたが、奥から昌聖が呼んでいる。
「上がりなさい」
 美咲が仕方なしに、言うと歩美は靴を脱いで、四つん這いになり進み出す。
 美咲は、尻尾をお尻で揺らしながら、歩美の前を歩いてリビングに向かう。
 リビングに入り、昌聖の横でお座りをする美咲は、昌聖に素早く耳打ちする。
「昌聖様…、歩美。可笑しいです…様子が…変…」
 昌聖は、美咲に言われるでもなく、部屋に入ってきた歩美を見て直ぐに気付く。
「どうした歩美?びしょ濡れじゃないか…こっちにおいで…」
 昌聖が声を掛けると、歩美は顔を持ち上げ、昌聖を見る。
 その顔が、リビングの状態を見て凍り付く。
 昌聖の右に美咲、左に佐知子そして足下に美由紀、3匹が主人に付き従っている。
(美由紀も…美由紀も…奴隷に成ったの…私の場所…もう…無い…)
 歩美の顔がゆっくり下がる。

 俯いたままジッと動かない歩美を訝しみ、近寄る昌聖。
 びしょ濡れの身体に触れ、頭をポンポンと叩いて
「どうしたんだ、黙り込んで」
 優しく問い掛けると
「や…い……し…く…ず……」
 歩美は俯き、震えながら、何かを呟いている。

 震えは、やがて大きくなり、声には、嗚咽が混ざりだした。
「歩美どうしたんだ?」
 昌聖は、また歩美の頭にポンと手を乗せ、頭をガシガシと撫でる。
「私やっぱり役立たずなんです…」
 歩美は、泣きながら昌聖に告白する。
「どうして、そう思うんだ?」
 昌聖が歩美に聞くと
「だって、私。何も出来ないんだもん…」
 歩美の言葉が、幼子のように変わって行く。
「誰だって最初は、何にも出来ないよ…」
 昌聖が諭すように言葉を掛ける。
「でも、出来ないのは、役立たずに成って、要らない子になるんだよ…」
 歩美の声は、完全に舌っ足らずな物になっている。
「大丈夫だよ…出来なかったら、一生懸命頑張れば、きっと出来るようになる…そうしたら、要らない子には成らないだろ?」
 昌聖の声は、ドンドン優しく、ゆったりとしたリズムに変わってゆく。
「うん…。でも、出来なかったら〜?」
 歩美が、甘えるように聞いてくる。

 ここまで、一切顔を上げないため歩美の表情は、昌聖からは見えない。
 ふと、ソファーの方を見ると、佐知子が硬い表情で歩美の顔を見ている。
 その表情に違和感を感じた昌聖は、歩美の顔を下から覗き込む。
 昌聖は、その時、背骨の中を冷たい塊が、走って行くのを感じた。

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