僕の転機
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■ 第11章 奴隷達の関係8

 歩美の目は、何も見ていない。
 そして半開きの口からは、涎がポタポタと滴っている。
 正座をして、背中を丸めながら俯く、歩美は言葉を続ける。
「要らない子は、大きく成っちゃ駄目なの…」
「役立たずは、はいきしょぶんに成るんだよ…」
「なにも、もたないものはゴミなの…」
「ゴミは、すてちゃうのが、いちばんいいの…」
 歩美が、ブツブツと呟いている。
 昌聖の目の前で、一人の少女が精神崩壊を始めた。
 何も手を出す事が出来ずに、見守る昌聖。
「あゆみは、なにもできないやくたたずだからゴミなの…かな…」
 歩美の言葉に対する、答えを必死で探す昌聖は、一つの方法を思いついた。

 しかし、失敗したら、取り返しの付かない事になるのも、解っていた。
 迷う昌聖の前で、歩美は精神崩壊に向かって進み出す。
「ゴミだから、いらなくなってすてられちゃうの…あゆみはすてられちゃうの…」
 歩美の声が、徐々に小さく成っていく。
「あゆみはす・て・ら・れ・ち・ゃ…う…の…」
 歩美の声が、途切れた。
「じゃぁ、僕が拾って上げる。ゴミは、拾っても構わないだろ」
 昌聖が、ゆっくり歩美に話しかけた。
「ひ・ろ・う・の…ゴミを…」
 歩美が呟く。
「うん、棄てられた物は、誰が拾っても良いだろ?」
 昌聖が、落ち着いた声でゆっくり、必死な顔で話す。
「ひろわれたら…どうなるの…」
 歩美の声が、少し大きくなる。
「拾った僕の物になるんだよ」
 昌聖が言葉を選びながら話す。

 玄関の扉が開き、宗介が飛び込んで来た。
「あゆみ…あなたのものに…なるの…」
 歩美の声が、呟きに変わる。
「そう、僕の物。要らなくなった、歩美は僕が必要だから、僕が拾う…」
 昌聖が、ゆっくり力強く歩美に話す。
「ひつようなの…いらなくなった…あゆみ…必要なの…」
 歩美の声が、また少しハッキリし出した。
「そうだよ、要らなくなって棄てられた、歩美を…。必要だから僕が拾った。だから歩美は、僕の物だ」
 昌聖がハッキリと力強く宣言する。
「歩美は…拾われたから…貴男の物…」
 歩美の言葉が、会話になり出した。
「そうだ、歩美。お前を拾った僕が持ち主だ、だから歩美は僕の所有物だ」
 昌聖は、必死に言葉を掛けるが、自分で方向がずれた事に、気が付いていない。
「貴男は、私の持ち主…。歩美は、貴男の所有物…」
 歩美の言葉は、少し小さめだが、普通の調子に戻ってきた。
「そうだ、お前の全ては僕の物だ、歩美は、何が有っても僕に従え」
 完全に、調教モードに入っていた昌聖は、その言葉を言った瞬間に事の重大さを感じ取った。
「はい。歩美は何が有っても、所有者様に従います」
 顔を上げた歩美の目には、大粒の涙が溢れていたが、その顔は晴れやかだった。
 しかし、後ろで黙って見ている、奴隷達の顔は、暗く沈み。
 宗介の表情に至っては、この世の物とは思えない程、怒りに震えていた。

◇◇◇◇◇

 気持ちの落ち着いた歩美は、胎児のように丸まり、うつらうつらとしだした。
 宗介は、美咲に歩美の着替えを用意させ、佐知子達と共に着替えさせた。
 宗介は、3人掛けのソファーの真ん中に座り、歩美の着替えを終えた奴隷達は、制服に着替えその足下で膝を抱えていた。
「昌聖ちょっと来い…。美由紀、歩美を客間に連れて行って寝かせろ」
 宗介の声は、地の底から響いて来るようだった。
「はい…」
 美由紀は、宗介の指示に従い、歩美を連れてリビングを出る。
 美由紀達が客間に付くまでの時間、重い沈黙が流れる。
 廊下の奥で、扉の閉まる音が聞こえた瞬間。
「お前は!」
「何で!」
 昌聖と宗介の声が同時に発せられた。

 どちらも、怒りの表情を浮かべている。
 宗介は、手を差し出し昌聖の言葉を遮って、自分の意見を先に話し出した。
「お前は、何を考えている!昨日。車の中で言った、俺の話を聞いていなかったのか?」
 宗介が珍しく怒りを顕わに、昌聖に捲し立てる。
「聞いてたさ!だから、必死で歩美の精神を繋ぎ止めたんじゃない!確かに最後は、不味かったかも知れないけど、結果として歩美は踏み止まったじゃない!僕が、ああしなければ、間違いなく、歩美は壊れてたよ!宗介さんも、見てて解っただろ!」
 昌聖が本気で、宗介に食って掛かった。
「ああ、それは感じた。しかし、それと、これとは、話は別物だ!途中までなら俺も認めた。しかし、最後の一言は、必要なかったはずだ」
 宗介が睨み付けながら言い切る。
「そんな事は絶対にない!言い方はどうか解らないけど…。あの手の言葉は、絶対に必要だと感じた」
 昌聖が自信を持って断言する。

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