僕の転機
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■ 第12章 落胆5

スイートルームを出て、車に乗り込んだ宗介と昌聖は、一路昌聖の自宅に向かう。
「本当に父さんて、そんなに偉いの? 全く信じられないんだけど…」
 車に乗り込み、黙っていた昌聖がポツリと漏らす。
 宗介は、クスクスと笑いながら口を開く。
「お前に、ここまで正体を晒さないのが、狸親父の証拠だろ…。因みに俺の家に有った3Dスキャナーは、お前の家の地下に有ったもんだ」
 宗介の言葉に、昌聖が飛び跳ねる。
「地下? 僕の家に? そんな物、見た事無いよ…」
 昌聖は、頭の中が混乱してきていた。
「それだけ、お前は物を見ていないと言う事だ…。お前の、情けなさが解るよ…」
 宗介が、昌聖の怠惰を責める口調で話す。
 宗介の言葉に沈黙する昌聖。

 宗介の車が昌聖の自宅前に止まる。
 扉を開けて、昌聖が飛び出し玄関を潜る。
「父さん! 何処ー!」
 昌聖が帰宅一番、父親を呼んだ。
「こんな時間だから、店に決まっとろうが! そんなでかい声出さんでも聞こえるわ!」
 店の方から、父親の声が聞こえる。

 そのまま廊下を通り、店に顔を出す昌聖。
 目の前には、背中を丸めた父親が、杖を片手に立ち上がる所だった。
「なんじゃ昌聖。大声出しおってからに…。ここは、野中の一軒家じゃないぞ! 周りの迷惑も考えろ…」
 最後の方は、ブツブツと呟きながら、振り返る。
「どうも、親父さん。今日は昌聖の事で、話しに来ました」
 深々と頭を下げる宗介に、一瞥を向け
「久能の倅か…何の話じゃ…この前の事は、ちゃんと断ったぞ」
 昌聖の父親がブツブツと宗介に話す。
「父さん! 組織って何? どうして、僕は入れないの? 父さんは何者?」
 昌聖は、自分の疑問を父親にぶつける。
「宗介…。マスターの一人とも有ろう者が、ルール違反か?」
 父親は、昌聖の質問には答えず、宗介を責める。
「いえ、そこまでの情報は、与えていません。ただ、昌聖は今回の懸案で当事者だったため、有る程度の情報には触れました」
 宗介は、姿勢を崩さず、昌聖の父親に説明する。
「ふーっ、こいつは何処まで知ったんじゃ?」
 昌聖の父親が、宗介に聞く
「組織の概要と、規模…それと加入条件です」
 宗介が答えると、昌聖の父親は、くくくと笑い
「随分、順番が狂っておるの…何を焦っている…」
 昌聖の父親は、宗介の真意を測ろうとする。
「焦ってはいません…ただ、こいつが俺の片腕に欲しいだけです」
 宗介が、自分の本音をぶつけた。

 じっと宗介の目を見詰め、首を左右に2・3度振ると大きく背伸びをした。
「そろそろ、時期が来たのかも知れんな…」
 そう呟くと、伸びた背中は、前屈みに成らず、持っていた杖を横に置いた。
 目を見張る昌聖、クスクス笑う宗介、惚ける父親。

 口をパクパクさせて驚く昌聖に、父親は
「昌聖。こう言う事だ…、ついでに言うと儂はお前の父親じゃなく。爺さんだ」
 衝撃の告白をニヤリと笑いながら、口調まで変えていた。
「何がどう成ってんの? 誰か解るように説明してくれ!」
 昌聖は心の底から、叫んだ。

 場所を茶の間に変え、ちゃぶ台を囲む3人。
 ひとしきり自分の身の上を聞いた昌聖が、情報を整理する。
「つまり。父さんは、僕の母親の父親で、両親は僕を産んで直ぐに死んだんだね…。それで、父さ…じいちゃんか、が僕を引き取り育てた。此処までは、解る。でも何で僕がじいちゃんの子供に成らなきゃいけ無かったの?」
 昌聖の質問に、宗介が答える。
「お前の両親も、組織に属していて。父親は、マスターの一人だったんだ。そして、お前の両親はマテリアルに殺され。お前を心配した、お爺さんが素性を変えるために、お前の戸籍をいじったんだ。だから、戸籍上お前は養子になっている」
 宗介の言葉に、口をポカンと開ける昌聖。
「もう良い…。もう驚かない…。それで、マテリアルって何?」
 昌聖の質問に爺さんがポツリと答える。
「狂人の集まりだ…金儲けのために、人の人生を狂わせて楽しむ、集団だ…」
 宗介が、頷き言葉を続ける。
「俺達は、言ってみれば相互扶助の団体だが、あいつらは只の犯罪集団だ。目的のために手段を選ばない」
 此処までを話すと、爺さんが唐突に質問を投げかけた。
「ところで、宗介…。昌聖は、もう作品を持ってるのか?」
 爺さんの質問に、宗介が
「契約したのは、3名います…。面接でもしますか? 実の孫の…」
 今度は、宗介がポカンと口を開ける。
「馬鹿。顔見せだよ…、どんな物か見てみたく成った。それにより、お前の話に乗ってやる」
 爺さんがはははと大笑いした。
(どうやら僕の知らない所で、僕の進む道が決まってしまったのかな?)
 昌聖は、一人取り残されて、思った。

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