僕の転機
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■ 第12章 落胆7

 ソファーに座る昌聖と宗介を囲むように、服装を直した少女達が床に正座する。
「話が長くなるから、足を崩しなさい…」
 昌聖が命令し、少女達が従う。
「じゃぁ、取り敢えず今日の出来事から、話してゆこうか…」
 宗介が口を開いて、今日の出来事を掻い摘んで話し出した。

 宗介の話を聞いていた3人は、一様に驚きを隠せないで居た。
「じゃぁ…歩美も被害者だったって事ですか…そのマテリアルって何ですか?」
 宗介の話を聞き終えた、美咲が質問をする。
「でも…催眠ってそんなに、強いモノなんですか? 今一信用できないんです…歩美の事…」
 佐知子が怪訝そうな顔で、聞き返してきた。
 美由紀は話の途中で、口を半開きにしポーッとした表情をしている。
「マテリアルについては、後で話してやる…。催眠については、掛ける物の技量で、その人物の自我すら閉じこめる事が可能だ…。現に歩美の姉は、自我を封じ込まれ、SEXドールにされている…」
 宗介の答えに、昌聖迄もが驚く。
「じゃぁ…歩美の姉さんがずっと微笑んでたのは…」
 昌聖の質問に、苦い表情で宗介が答える。
「そうだ。催眠術師のプログラムだ…。どんなSEXにも応えられ、微笑む事とSEXに反応する事しかできない、人形にされているんだ」
 宗介の答えに少女達は、恐怖をその顔に張り付かせる。
「それって掛けられたら、解けないんですか…」
 佐知子が恐る恐る聞いて来た。
「術者のキーワードが有れば直ぐにでも解ける…。だけど、別のキーワードで別の行動をする恐れもある。今回の歩美がそうだ…。何らかのキーワードに反応して、橋から飛び込み意識を封じ込めた…。あのままで行けば、溺死間違い無しだった…」
 宗介が淡々と答え、佐知子は聞かなければ良かったと言う表情をする。
「じゃぁ…今回はどうして歩美は目覚めたんですか?」
 美由紀が不思議そうに尋ねて来た。

 宗介は、フフフッと笑い昌聖をスッと指差す。
「この男が、歩美の崩壊を救って、その後目覚めさせ、尚かつ正気を維持させて居るんだ…。並みの術士でも出来ない事をやってのけやがった…。本当不思議な奴だ…」
 宗介が苦笑しながら言うと、少女達は皆尊敬の眼差しにウルウルまで加え、自分達の主を見詰める。
「い、いや…僕は…」
 昌聖は、急に褒められて、照れながら頭を掻く。

 そして、宗介が口調を変えて話し出した。
「今回の件の発端は、歩美が陥れて売春を強要していた少女達の中に、2人程協力者の娘がいた事から始まった」
 突然の話題の変化に、皆宗介の顔に注目する。
「その協力者のランクは、歩美の父親より低かったため、余り本部も乗り気では無かったが、調べてみるとマスターの血縁者まで巻き込んでいた。これには、本部も黙っている訳にはいかなかった…。しかし、それぐらいで俺が出張るような問題ではなかったが、再調査の結果もっと重大な事が判明しだした。マテリアルの関与と裏切り者の存在だ…」
 宗介が一同を見ながら、言葉を句切る。
「そして、俺に声が掛かり、裏切り者のあぶり出しと事件の集結のために、シナリオを作り、来日した訳だ。昌聖に合ったのは、偶然でも何でもない…。シナリオの一部だったのさ…」
 宗介は、昌聖を見てニヤリと笑う。
「じゃぁ…宗介さん…僕と会った時。車の中で殴ったのは…」
「あれは、お前の情けなさに対する、俺の気持ちさ…。本当に情けなかったぞ…」
 宗介は、目を覆いながら昌聖を叱る。

 そう言われて、ぐうの音も出ない昌聖は、膨れっ面になって押し黙る。
「そして、後はみんなの知るとおり契約を結んで、調教を始めたと言う訳さ…。歩美は、最終的にどうなるか解らないけど、みんな納まるべき所に納まった…。クレームがあるなら聞くけど…。今の状態に不満のある人居る?」
 宗介が一同に問い掛ける。
 少女達は、一様に昌聖に擦り寄り
「有りませーん」
 陽気に答える。

 しかし、昌聖だけが手を挙げ、
「僕、宗介さんに良いように踊らされただけって事? そして、この後組織に加入させられる…って事かな?」
 膨れっ面で昌聖が宗介に質問をする。
「おいおい…。俺と会って随分立場が変わった筈だし。俺達の組織は入りたくても、入れないんだぜ…。そんな文句の付け方無いだろう」
 宗介が意外そうに両手を広げ、首を振る。
「まぁ…。僕の生い立ち何かも良く解ったし…。感謝はしてるよ…。だけど、リアリティーなさ過ぎるよ…。やっぱり…」
 昌聖は、組織の規模も、その力にも、胡散臭さを感じている。
 自分の祖父も、両親も、入っていた組織なのだが、今ひとつ乗り気になれない。
 それは、昌聖自らの自信の無さから来る物だった。

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