僕の転機
MIN:作

■ 第13章 僕の転機4

 歩美の反応を訝しみ、昌聖は有る質問を投げかける。
「お前…以前の記憶はあるのか…」
 昌聖の質問に
「いえ…物体として、所有者様にお使い頂く訓練を受けた以外の記憶は、御座いません」
 歩美が答える。
(こいつ…。僕が鍵を受け取らなかったら…。何処の誰とも解らない奴に一生弄ばれてたのか…)
 昌聖は、歩美の答えに、痛みを感じ唇を噛む。
(宗介さん…。ここまでする必要が有るの…?歩美も……いや、どうでも良い…これからはこいつも此処に居る…)
 哀れみの表情を浮かべていた昌聖は、表情を戻し口を開いた。
「で…この後どうするんだ…」
 歩美は、尚も平伏しながら答える。
「はい。鍵を開いて譲渡証明書に、所有者様のお名前と物の呼び方を、お書きに成って、正を組織にお送り頂き、複を所有者様が管理して譲渡が成立します」
 昌聖は鍵を見つめ、歩美を呼んだ。
「こっちへ来い」
 昌聖の命令に素早く動く歩美。
 昌聖の足の間に立ち、足を大きく開いて腰を突き出す。
 昌聖は南京錠に鍵を差すとひねり、解錠してピアスから外す。
 すると、閉じられていたオ○ンコから直径5p、長さ15p程の銀色の円筒がズルリと出て来た。
 昌聖はその円筒を捻り、開けると中にA4の紙が入っていた。

 紙を広げると英文で、何やら書いている。
「ジェントリー・オーガニゼイション・スレイブ…、シリアルナンバーFE−350273の全権を受諾した事を証明します。ここに名前か…これだけ…」
 昌聖は、2枚目を見てもう一度戻り、美咲に手渡し
「今の訳で間違いない?」
 確認する。
「はい、完璧です。昌聖様」
 美咲が目を通して書類を渡しながら答える。
(こんな…たった2行の文で、歩美は人に譲り渡される所だったのか…。酷いな…、記憶も奪われ…、奴隷として…いや…それ以下だったかも知れない…)
 昌聖の手は、ワナワナと震えていた。
 腰を突き出した姿勢のまま、歩美は昌聖を不思議そうに見ていた。
(この方の声…、何処かで聞いた事がある…。とても懐かしい…)
 昌聖は、ペンを取り書類にサインをした
 所有者:近藤 昌聖、所有物:山田 歩美。
 書き上げた書類を歩美に差し出し
「僕の名前は、近藤昌聖。お前の名前は、山田歩美だ」
 そう告げた。

 その時歩美の身体が、おこりのように震え、涙を流しながら2人の名前を呟く。
 歩美の身体がカクンと崩れ、床に倒れ込む。
 昌聖は慌てて、倒れた歩美を抱え起こした。
「どうした、大丈夫か?…」
 俯いていた歩美は、昌聖の声に反応し顔を上げる。
「近藤君…御主人様…私…私…」
 歩美の変化に気付いた昌聖。
「歩美…記憶が戻ったのか?…」
 昌聖が正面から見詰める。
「はい…はい…解ります…みんな、思い出しました…私の記憶は、御主人様の名前と私の名前で、元に戻ったんです…」
 歩美は昌聖に縋り付きながら、蕩々と涙を流し、何度も何度も感謝の言葉を言った。

 後ろで見ていた佐知子と美由紀、それと美咲は訳が分からず、呆然としている。
「歩美…これからどうする…家族の元に返るか?」
 昌聖は歩美に問い掛ける。
 歩美は昌聖の顔を正面から覗き、ジッと目を見詰めた後、フルフルと首を横に振った。
「出来れば、以前にお約束したとおり…御主人様の所有物として、存在を許して頂きたいのです」
 歩美は、昌聖に向き直り、平伏する。
「こんな身体に、成ってしまいましたが…。御主人様のお情けに縋り、生涯を捧げて、お仕えさせて頂くわけには、行かないでしょうか」
 歩美は、床に頭を擦り付け、奴隷となる事を哀願する。
「お前達…。どうする…」
 昌聖は、奴隷達に聞いた、たとえ答えは解っていても過去のわだかまりを、払拭するため。
「昌聖様のお心のままに従います」
 奴隷達の解りきった答えを、昂然と受け取った昌聖。
 昌聖は平伏した歩美の頭の上に、足を置き歩美に告げる。
「お前は最下層の奴隷として、また先輩奴隷のペットとして、僕の周りに仕える事を許可する。これからは、僕達全員の奴隷だ解ったな」
 昌聖の宣告に歩美は
「はい、ありがとうございます…誠心誠意全力を持って、お仕えさせて頂きます」
 大きな声で宣誓した。
 足を退けた昌聖は歩美の顔を上げさせ
「みんなに挨拶して来い…」
 優しく微笑みながら言った。
 歩美は美咲・佐知子・美由紀の間をグルグル回り、何度も何度も謝罪と感謝を繰り返した。
 こうして昌聖の奴隷は4人に成った。
 生涯昌聖の作る道具の実験台、愛する4匹のギニーピッグ達。

◇◇◇◇◇

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