ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第1章 目覚め4

 届いていたのは、部屋で着るつもりで注文した下着だった。

――あんなに綺麗な下着、汚しちゃもったいない

 竜之介は夕食もとらず、身に付けることを想像しながら急いでバスルームに飛び込む。

 身につけて鏡に映る自分を想像し、ウキウキしながらボディシャンプーの泡で全身を包んだ。

――どうしようかなあ、、、

 竜之介は、ネットで自分の姿を公開するかどうかをここ数日悩んでいた。

 最初はどう見てもタレントが笑いを誘うために化粧をしたような不細工な出来栄えだったのが、この頃は「鏡の中の女の子」が毎日少しずつ綺麗になっていく。

 まだ外出する程の勇気は持てないが、その姿を”鏡を見つめる自分”だけが見るのは竜之介には何とも惜しい気がしてきていた。

――今ぐらい化粧が出来たら、もし会社の人が見たってボクだってばれないよなっ?!

 竜之介は親や友達、何より会社の人に”女装趣味”を知られることを恐れていた。 犯罪を犯しているわけじゃないが、さすがに恥ずかしくて会社に居づらくなるに決まっている。

 しかし綺麗に変わっていく姿を見てほしいという欲求はもう抑えきれないほど昂っていた。

 勢い込んでバスルームを出た竜之介は、届いたばかりの下着にいそいそと身を包み鏡に映す。

――うふっ。 可愛いじゃん

 フリルの付いたコットン地のランジェリーは肌触りも気持ち良く、てとも気に入った。

「どう、ごん太? 似合ってるだろ?!」
 明菜が家では飼えないからと強引に竜之介の部屋に連れてきたペットの猫・ごん太が喉をゴロゴロ鳴らし、竜之介を見ていた。


「よ〜しっ!」

――僕は、女になりたいわけじゃない。 可愛い、綺麗な女に見られたいだけなんだ。 人に言えない少し変わった趣味を持ってるだけさ

 竜之介はパソコンの前に陣取り、可愛い下着を身に着けた高揚感も手伝い『女装外出日記 ヴィーナス&マース』と題したブログを一気に立ち上げた。

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