ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作
■ 第2章 新しいボク6
「わぁ、嬉しい! 何がいいですか?」
「いやあ、、、 別に何でも、、、」
「じゃあ、私に任せてくださいね。 あっ、でもまだ時間的には早いですよね。 そうだわ。 一緒にお買い物に行きましょう。 今日はホントはお買い物に行く予定だったんでしょ?!」
「えっ、、、」
「たっちさん、下着が欲しかったんでしょ?! 私が一緒に選んであげる。 ねっ、いいでしょ?!」
恵理が耳元で囁いた。
「うん、、、」
竜之介はすっかり恵理のペースに引き込まれ、頷いてしまった。
「さっ、行きましょ」
レシートを手に取り、さっさと席を立ってレジに向かう恵理の後を竜之介は追った。
◆
「ねっ、これどう?!」
「えっ、、、 そんなセクシーなのって、、、」
「うふふっ。 レディのお洒落はインナーからですよ」
竜之介は恵理は、恵理がよく利用しているらしいインポートものばかりを扱っている高級ブティックにいた。
恵理は陳列してある商品を片っ端から手にとり、竜之介の身体にあてては鏡に映る竜之介の姿を嬉々として愉しんでいる。
「わあ! こっちも可愛い。 ねっ。 どう?!」
「ええ、、、 素敵です、、、」
「みちるさん。 遠慮なくご試着してくださいね」
店の奥から店長が声を掛けてきた。
「ええ、ありがとう。 オーナー」
恵理の声とともに竜之介もペコリと頭を下げた。
「うふふっ。 みちるさんですって〜。 オーナーったら竜之介さんとお話ししたくて仕方がないんだわ」
店に入った時、恵理はオーナーに『私の従妹のみちるちゃんです』と竜之介を紹介していた。
話好きでいつもは買い物の間中そばに付き添うオーナーを、『今日は私がみちるちゃんの勝負下着を選んであげるたいから構わないでくださいね』と話に加わってくるのを恵理はきっぱりと遠ざけていた。
「あっ、みちるちゃん。 これはっ?! 私とお揃いになるわ。 うふふっ」
輝くような白いレースがたっぷりと使われたショーツを恵理はオーナーに聞こえよがしに嬉しそうにかざす。
「うん、、、 とっても綺麗です、、、」
「ふふっ。 どれにするか迷っちゃうわね」
「ええ、、、」
竜之介は買い物をするつもりだったので、そこそこの金額を下ろして持っていたが、ショーツ1枚が5千円近くもするものを買うつもりはなかった。
しかし、恵理が連れてきてくれた店なので、何か一つくらいは買わなければいけないとは思っている。
「全部頂いちゃいましょうか?!」
「あっ、いや、、、 恵理さん。 ボク、そんなにお金持ってないです、、、」
「ううん。 これもお詫びの印に私からのプレゼントさせてください。 あなたが綺麗になるお手伝いがしたいの」
「えっ、そんな、、、 こんなに高いものを、、、」
選んだショーツやキャミソールを手に、恵理は微笑みながらキャッシャーへ歩いて行った。
◆
竜之介と恵理は、買い物が済んだ後に行った居酒屋であっという間に打ち解ける。
”竜之介の女装”という秘密を共有している事が二人を急速に近づけた。
人に言えない秘密の愉しみを隠す必要がなく、知った上で応援してくれる恵理の存在は竜之介の心を軽やかにしている。
しかも女装して初めて外で摂る食事は、”街に溶け込んでいる女の子”を実感させ、竜之介はウキウキしていた。
仕切り板で区切られただけだが、個室風の席だったこともあって周囲にあまり気兼ねすることなく話すことが出来る。
様々なジャンルで二人の好みはよく似ていて、酔いも手伝いずいぶんと会話が弾んだ。
お淑やかに見える恵理が数年前までは竜之介と同じメーカーのバイクに乗っていたという話には、竜之介はビックリしてしまった。
とても女性らしいしなやか仕草で魅惑的な笑みを浮かべる恵理からは、バイクを転がしていた姿はとても想像できない。
反面、仕事が忙しいせいなのか、化粧法やファッションの流行にはあまり関心がないようで、竜之介の方がよほど詳しい。
ファッションの話や化粧について話が及ぶと竜之介の独壇場だ。
「すご〜いっ! 私なんかたっちさんの足元にも及ばないわ。 凄く研究してるんですものね」
「そりゃ、恵理さんは何もしなくってもホントの女だし、そんなに綺麗なんだもん。 ボクはそれ以前の問題からクリアしなきゃいけないからね」
「今度私に化粧教えてくれないかしら」
「えへっ?! 別にいいけど。 じゃあその代わりにまだ一人じゃ自信ないから買い物、時々付き合ってくれる?」
「ええ! 喜んでお付き合いします。 私は”究極の女の子・たっち制作委員会”の会員一号で〜す。 うふふっ」
「なんだよ、それ。 ふふっ」
――かっ、可愛いなあ、この子、、、
竜之介は恵理は笑うと、目がへの字になって何とも言えない人懐っこい顔をすることに気が付いていた。
――あらら、、、 ボク、この人のこと、好きになってるよな?!、、、
竜之介は目の前で微笑む恵理のことが大好きになっているのに気がついた。
――これって異性として好きなのかなあ?! それとも女同士の友情か?! へへっ
その後もまるで仲の良い女の子同士のようにアレコレ他愛のない話で盛り上がり、店を出る頃には、次の日曜日に天気が良ければツーリングにいくデートの約束まで交わしていた。
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