ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第4章 翻弄1

 ―補導―


「う〜〜ん、、、 よく寝た〜」

 連夜の寝不足のせいもあり、昨夜はぐっすりと眠った。

 恵理がアメリカに出張して初めての週末だ。

 恵理が居ないと思うと寂しさがこみ上げてくるが、たった3カ月のことだと思い直し、一人で女装して外出しようと決めた。

 洗濯器を回し、部屋を手早く掃除をしてからシャワーを浴びた。

――そうだ! 今日は恵理のセーラー服でお出掛けしよっと

 思えば恵理に初めてお尻の快楽を教えられたのは恵理のセーラー服で外出した日だ。

 ウキウキしながら鏡の前に座り、メイクをはじめた。

「あ〜あっ、、、肌がボロボロだあ、、、」

 竜之介は鏡に映る自分を見詰めてため息をついた。

 目の回りにはうっすらくまができて、肌がかさついている。

――ほんと、いい加減にしておかなきゃ、、、 寝不足は大敵だわ

 化粧のノリが悪く、なかなか思うようには仕上がらなかったが、セーラー服姿を目にした途端に竜之介は楽しくなってきた。

「うふふっ。 今日は渋谷へ行こうかなあ」

 竜之介は立ちあがるとネットで手に入れたばかりのスクールバッグを手にいそいそと部屋を出た。


   ◆

 いつも隣に居る恵理がいないのは少し不安を感じたが、いつも以上にドキドキしながらお茶を飲んだり、ブティックを覗いたり女の子としての渋谷の街を竜之介は存分に楽しんだ。

 夕日が渋谷の街を紅く染め、街ゆく人たちの雰囲気も夜モードに変わっているような気がした。

――そろそろ帰ろっかなあ

「ちょっと、貴女。 いいかしら?」

 駅に向かって歩き出すとふいに肩を叩かれ呼びとめられた。

 振り向くと制服の婦人警官が立っている。

「は、はい、、、 なんですか?」

「見なれない制服ね。 どこの高校?」

「あ、、、 あの、、、」

――どうしよう?! 恵理の高校の名前なんてったっけ、、、 コスプレって言った方がいいかな、、、

「ちょっと、交番まで来てくれる?!」

 声をかけられたのはちょうど交番の真ん前だった。

「あっ、その、、、 私、、、」

「何なの?」

 周りにはたくさんの人が行き来している。

――こんな場所で『実は男です』だなんて恥ずかし過ぎるよなあ、、、

「あっ、いえ、、、 わかりました」

 竜之介は婦警に抱きかかえられるように交番に入っていった。


   ◆

「ホントですってば!」

 男の声で竜之介は懸命に話した。

「どう見ても女の子でしょ」

「だから〜、、、 趣味で女装してるだけですって! 声を聞けばわかるでしょ!」

「おう、どうした、並木? 家出娘か?!」

 背の高い目つきの鋭い男が背後から声をかけてきた。

「あっ、富岡警部。 実は補導したこの子が僕は大人の男だって言い張るんです」

「はあ?!」

 富岡は竜之介の顔をしげしげと覗きこんだ。

「ホントですって! ボクは男です!」

「身元を証明するものは?」

「それが何も持ってないんです。 名前すら言わないんですよ」

 女装外出する時には恵理に買ってもらったエルメスの財布を持ち歩いているが、今日は実在の”竜之介”でないと買えない物を買うつもりもなかったので現金だけを入れて外出していた。

「ふ〜ん、、、 じゃあ、署で詳しく調べるか?」

「え〜っ?!」
――ウソだろ、、、

「とにかく署まで連れて行け」

「はい」

「あっ、いやっ、、、 そんな、、、」

   ◆

 初めて足を踏み入れた薄暗い取調室に竜之介は不安を覚えた。

 TVドラマと同じように机を隔てて富岡警部の対面に座り、並木という婦警が調書を取るために背後の机に向かって座っている。

 窓からはすっかり陽が落ちて繁華街の瞬くネオンの灯りが見えた。

「名前は?」

「…………」

「年齢は?」

「25、、、」

「ほぉ〜。 随分歳喰った高校生だな。 仕事は?」

「会社員、、、」

 竜之介は重い口を開いた。

「どこの会社だ?」

「…………」

「しょーがねえなあ、、、 じゃ、脱いで身体を見せてみろ」

「はい?」

「男の証を見せてみろって言ってんだ!」

「そんな、、、」

「名前も勤め先も言いたくないんだろう?!」

 竜之介は頷く。

「要はお前が女子高生じゃなかったら補導なんてしなくていいんだ。 大人の男の証拠さえ見せてくれたらそれで済むじゃないか?! そうだろ」

「…………」

 思い悩んだ末、竜之介は富岡警部の言葉に従うことを決めた。

「は、はい、、、 わかりました」

 ただの女装と言ってもまだ世間では変態扱いする人も少なくはない。

 下手に警察に名前を控えられたりすると、何かの時に不利になりそうな気がするし、何より会社に問い合わせられ女装趣味を知られるのはなんとしても避けたい。

「早くしろよ、キミ」

「あ、はい、、、」

 竜之介は立ち上がり、ふぅ〜と大きく息を吐き、そしてセーラー服のファスナーに手をかけた。

   ◆

「ふふふっ。 可愛い下着つけてるのね」

 上着を脱ぐといつの間にか傍に立っていた並木婦警が上着を奪うように取りあげ丁寧に畳んで机の上に置いた。

――あぁぁ、、、 身体が熱い、、、

 理不尽な理由で下着姿を晒すのは悔しくて仕方がないのだが、恥ずかしさが和らぐはずもない。 竜之介はJULLYで撮影した時の事を思い出していた。

「この下着、盗んだんじゃないのか?」

「ち、違います! 自分で買いました。 あっ!?」

 並木と名乗った婦警がブラジャーをずらし、カップの中を覗いてきた。

「あらら。 何コレ?! ヌーブラかしら?」

「あっ!」

 並木がカップの中に手を入れ、ブラジャーに詰めていたヌーブラを取り去ってしまった。

「うふふっ。 ペッタンコね〜」

「お、男ですから、、、 こ、これでわかったでしょ!」

「まだわからんなあー。 ブラジャーを外せ」

「えっ? 何で、、、」

 逡巡している間に並木が無理やりブラジャーを外した。

「並木。 ブラジャーの中に仕込んでないかチェックしたか?」

「はい、富岡警部。 何もありません」

 並木はブラカップを手で揉みようにして何かを調べているようだ。

――仕込む?! 何言ってんだ、こいつら、、、

「そうか。 次はスカートも脱いでくれるかな」

「えっ!? もう十分だろ! この胸見たら男ってわかるでしょ!」

「うるさい! さっさと脱がんか! 実はな、最近、このあたりで女子高生がヤクの売人をしてるっていう情報が入っている。 もしかしたらお前じゃないかと思ってな」

「ま、まさか。 そんな事、ボクには関係ないです」

 予想もしない嫌疑をかけられていることに竜之介はビックリしてしまった。

「どこかに隠しているんじゃないのか?! 女ならではの肉筒の中に隠していることもよくある話だからな」

――この人たち、本気で疑ってるのか?!

「脱げないなら脱がしてやろうか?」

「い、いえ、、、 脱ぎますから」

――ヤクの売人だなんて、、、 とんでもないことになっちゃった

 竜之介は仕方なくスカートを下ろした。

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