ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第4章 翻弄4

   ◆

「ずいぶん儲けたもんだな、竜之介〜」

 景品交換の小さな窓口から差し出された6万円を超える札をみて橋本が大きな声を上げた。

 竜之介は橋本を無視して足早に駐車場へと向かう。

 愛車の傍まで近づいて、はたと立ち止まった。

――橋本チーフはボクの車を知ってるんだった、、、 乗ってしまえばボクだって認めた事になってしまう、、、

「どうした、竜之介?! お前の車はそれだろ?!」

「だっ、誰かと、、、 ひ、人間違いされているんじゃないですか?!」

「ひゅ〜〜っ! 声まで女じゃん! 凄いもんだな、竜之介」

 迫ってくる橋本に後ずさりするが直ぐに愛車のドアに追い詰められてしまった。

「あぁぁ、、、 どうしてボクだと、、、」

 竜之介は観念した。

「ふふっ。 明菜に言われてさ。 暫くお前を見張ってたんだ」

「えっ?! あ、明菜に?」

「ああ。 お前に振られたのが余程悔しかったんだろうなあ。 一度お前のマンションに入っていく女を見かけたらしく、お前の次の女ってどんな奴なのか突き止めてってうるさくってさあ」

――明菜、、、 チーフはどこまで知ってるんだろ、、、

「そしたら、、、お前のこんな趣味に突き当たったってことさ」

「・・・・・・」

「先週の日曜日、○◇山上公園の駐車場での露出プレイには驚いたぜ。 暗闇の中でヘッドライトに浮かび上がった裸の女がお前だなんて暫くは信じられなかったぜ」

――うそだっ、、、 見られていた、、、

「あの女が新しい彼女なんだろ?! あっ?! お前の方があの女の彼女か?! あははっ。 レズビアンみたく見えるし、SMのようでもあるし、訳がわからん関係だな、おまえら」

「いやっ! やめてください、チーフ」

 橋本が不意にスカートをめくり上げて竜之介の下半身を露わにした。

「えっ、、、 どういうことだ、竜之介、、、 お前、性転換してたのか?」

 あるはずの膨らみがなくのっぺりとしたショーツのシルエットを見て橋本が驚いて大きな声を上げた。

「ち、違います、、、」

「違うったって、、、 どこにお前のチ×コがあるんだよ? ちょっと見せてみろ」

「あっ! やめてください! いやあぁぁぁぁ」

「あの女にこんな風にさせられてるのか?」

 玩具を扱うようにクルリと反転させられた身体を車に押しつけられ、ピッチリとショーツが張りついたヒップが橋本の目に露わになった。

 そして一気にショーツが引き下ろされてしまう。

「あはははっ! なるほど〜〜。 こうなってるのか! チ×ポを股の下で折り曲げてるんだなっ」

 タックの合わせ目からちょこんと飛び出ているペ×スの先端を橋本に見咎められてしまった。

「ああぁぁぁ、、、 止めてください、チーフ、、、見ないで、、、」

「会社にも毎日こんなふうにチ×ポを隠して出勤してんだろ?!」

「い、いえ、、、 そんなことは、、、」

「ウソつけ! 最近お前のジーンズの股間のシルエットがおかしいなと思ってたんだ。 トイレもいつもおっきい方に入ってたの知ってるぜ。 こんなんじゃ小便は後ろにしか飛ばんから小便器には無理だよなあ、竜之介。 あ〜〜はっはっ」

「あぁぁぁ、、、やめてください、チーフ。 ひっ、人がきます」

「うるさい! じっとしてろよ、竜之介」

 橋本は顔を近づけ身体中を舐めまわす様に観察する。 そして愛撫をするように肌を撫でまわしていく。

 怖気立つ感触の中に疼くような甘い感覚が湧きあがってくるのを竜之介は懸命にこらえた。

「おまえ、肌も女みたいにツルツルで気持ちいいなあ」

「あぁぁ、、、 もう赦してください、、、」

「おい、竜之介! さっきの女の声で喋れよ。 この恰好で男の声は似合わないぜ」

 橋本は執拗に撫で廻し、大腿に唇を這わせ始めた。

「な、何をするんですか! やめてください!」

「こらっ! 女の声で喋ろって言ったろ!?」

 竜之介のヒップに橋本の大きな掌が振り下ろされ、パンッ!と乾いた音が鳴った。

「くくっ。 俺は男には興味がないが、お前を見てると変な気分になっちまうぜ」

「あああぁぁぁ」

「なあ、竜之介。 お前、女になりたいのか?! 性同一障害ってやつなのか?!」

「ちっ、違います、、、」

 竜之介は女の声を絞り出して言った。

「嘘つけ! くくくっ。  いい声だぞ、竜之介」

「ほ、本当です。 女装は休みの日だけの趣味なんです、、、」

「ふ〜ん。 まあ、そういうことにしておいてやる。 今度、お前の綺麗でドSの彼女に会わせてくれよ〜」

「そっ、そんなこと、、、彼女にはなんの関係もない、、、」

「ふふっ。 お前の心配はわかってるさ。 竜之介は俺の可愛い優秀な後輩さ。 このことは会社にも明菜にも黙っててやるよ。 俺とお前の秘密だ」

「ああぁぁぁ、、、 はい」

 この時、竜之介のバッグの中で携帯の着信を示すメロディが鳴った。

「ん?! でなくていいのか?」

 一瞬、焦った表情を見せた竜之介に橋本は聞いた。

「あっ、、、 いいです。 後で掛けなおします」

 困ったような表情を浮かべた竜之介を怪しく思った橋本がバッグから携帯を取り出した。

 掛かってきた電話は既に留守電に切り替わっていて橋本は直ぐに再生ボタンを押した。

(JULLEY編集部の長谷川です。 みちる君、3時の約束だったんだけど何かトラブルがあったんですか? カメラマンもスタンバイしてるんだけど、連絡をください )

「みちるってお前の事か?」

「あぁ、、、 それは、、、」

「3時に約束してたのか? JULLEY編集部の長谷川って誰だ?」

「あの、、、 今日、雑誌の撮影があって、、、」

「ほう。 JULLEYって女性ファッション雑誌じゃなかったっけ?」

「はい、、、 読者モデルに応募してて、、、」

「へえ〜?! お前がモデル?! 今日撮影の予定なんだな?!」

「はい、、、」

「すげ〜じゃん。 行こうぜ。 まだ10分遅刻してるだけだ」

「えっ?!」

「俺も立ち会う。 その撮影にさ」

 竜之介のバッグから車のキーを取り出し、橋本は運転席に乗り込んだ。

「そんな、、、」

「さあ、早く乗れよ」

 エンジンがかかり、橋本は竜之介を急かすようにブウォーン、ブウォーンと空ぶかしを繰り返す。

「はい、、、」

 竜之介は言われるまま助手席に乗り込んだ。

「でっ、撮影は何処だよ?」

「、、、三ツ沢公園の近くです」

「なんだ、直ぐそこじゃねえか! 急ごう」

 竜之介の愛車はタイヤをきしませ、立体駐車場を発進した。

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