ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第4章 翻弄5

 ―モデル撮影―


「遅れてしまってすみません」

 指定されたフォトスタジオに30分遅れて辿りついた。

「心配しましたよ、みちるさん。 早速始めましょう。 これに着替えてください」

 長谷川は黒地にピンクの水玉模様が鮮やかなシフォンドレスを手にして駆け寄ってきた。

「着替えはそこの部屋を使ってね。 ん?! こちらの方は?」

 竜之介の背後に立つ橋本を訝しげな表情で長谷川が尋ねた。
 
「と、友達です、、、」

「友達ってみちるさんの彼氏って事かな? ふふっ」

 長谷川は意味ありげに笑った。

「い、いいえ! 違います」

「ははっ。 はじめまして。 こいつの職場の同僚の橋本っていいます。 一人じゃ不安だから撮影に付き合ってくれって言うもんで。 見させて頂いていいんですよね?!」

「う〜ん、、、 他のモデルさんもいますし、その場で着替えたりすることもあるので、それはちょっと遠慮ください」

「あっ、そうなんですか、、、 残念だなあ」

「まあ、初めての撮影でみちるさんもナーバスになっておられるようだし、今から着替えてもらう間にうんと勇気づけてあげてくださいよ」

「そうですね。 そうします」

 橋本は、竜之介の肩を抱いて指定された更衣室へ向かった。

   ◆

「ほれっ、竜之介。 早く着替えなきゃカメラマンが待ってるぜ」

「橋本さん、、、 お願いですから出ていってください、、、」

「なんでだよ〜。 ナーバスになってるお前を元気付けてあげてって頼まれたんだぜ。 頑張れ〜、竜之介! 早く脱げよ」

「、、、あぁぁぁ」

 竜之介はワンピースの肩ひもに手をかけた。

 橋本は入社以来何かと面倒を見てくれた竜之介がもっとも信頼する先輩だ。 その橋本の前でブラジャーとショーツだけの姿を晒すのはとてつもなく恥ずかしい。

「ひゅ〜〜〜っ! お前、身体つきまで女みたいだなあ〜〜! 前にサウナでお前の裸を見た時は細いなあとは思ったけど、ひょっとしてホルモン剤とかって飲んでるん
じゃないのか?!」

「いっ、いいえっ! とんでもない、、、」

 あまりの羞恥にかぁーっと身体が火照り、目眩がしそうな程に血が湧きたってくる。

「やっべ〜っ! お前を見てたらチ×コ勃ってきたぞ。 あははっ」

 竜之介は長谷川に渡されたドレスを手に取り、肌を隠したい一心で慌てて身に付けた。

   ◆

「チッ! とんだ邪魔が入ったな、、、」

 今日、竜之介を弄ぶつもりでいた富岡は舌打ちをした。

「竜之介の男ってあいつなんかあ?! 調べてみてもそんな男の存在は浮かばなかったんだがなあ、、、」

「ちょっと、富岡さん。 見てください。 雰囲気おかしいですよ」

 長谷川が更衣室の様子が映るモニターを指差し、音声のボリュームをあげた。

「あっはっはっはぁ〜」

 モニターを見入っていた富岡が弾けるように笑った。

「女装の秘密を知られて脅されてるってことだな。 ふふっ。 まかせとけ」

「じゃ、昨日言ってた通り今日、、、?!」

「ああ。 ドクターにも声掛けてやれよ」

「わかりました」

   ◆

―前日、取調室の隣室―

「どうだ?! ホントに女と見間違ってしまう程可愛いだろ?! どこも身体をいじらずにだぜ」

 富岡は取調室の隣の部屋に入り、マジックミラー越しに竜之介が服を着ける姿を二ヤついて眺めている男たちに声をかけた。

 彼らはそれぞれの職業を生かし女を弄び喰いモノにするワル仲間たちで、面白いのが引っかかったという富岡の誘い駆けつけてきた。

「ふふっ、富岡さん。 彼は速水みちる。 女装をアートとして極めるとかをコンセプトにnetでは結構有名な奴です。 もっとも”みちる”っていうのは偽名で本名は竜之介
って言うんですけどね」

「へっ?! 長谷川、おまえ知ってんのか?」

「はい。  実はうちの雑誌に一月ほど前に読者モデルに応募してきて、今度紙面で使うつもりで明日撮影の予定だったんです。 面白いのが居るから明日の撮影に立
ち会いませんかってお誘いしてたのはあの子ですよ。 こんなところで会うとは驚きました」

「えっ、ホントかよ?! じゃあこの後姦ってやろうと思ってたんだけどまずいか、、、」

「皆さんがいつもみたいに輪姦しちゃたら明日の撮影は使いモノにならなくなっちゃいますよ〜。 今日は勘弁してください」

「ちぇっ! 久しぶりに男のケツを掘るのも面白いと思ってたんだがなあ、、、」

「まあまあ、少しだけ待ってくださいよ。 うちの雑誌に載ると結構人気が出るはずですから。 人気者の有名人を嬲る方が客も面白がるだろうし、俺も高く買って貰えるし。
 ねっ、横田さん」

「チェッ! 仕入れが高くなるじゃねえか、、、」

「何言ってるんですか?! その分客に高く吹っ掛けるくせに」

「そりゃそうだ。 あははっ」

「それにしてもお前とこの倶楽部って男もいたっけ?」

「ああ。 工事済みのニューハーフは何人かいるぜ。 お前のお気に入りの由梨だってそうかも知れないぞ。 ふふっ」

「おいおい、勘弁してくれよ」

「桑野さんの性転換手術はハンパじゃないですからね。 ホントの女より具合が良かったりしますもん。 ねっ、ドクター?!」

「ふふっ。 まあね」

「とにかく、あいつは竿付きのまま嬲りたいよなあ」

「あははっ。 横田さんは本当に穴があれば何でもOKなんですねえ」

「バカ野郎。 こういうのは好奇心旺盛というんだ」

「だが竜之介の背景を調べておかないといかんなあ。 ア×ルを開発した男がいるはずだしなっ」

「彼の環境がややこしくないなら、俺にもあの子の身体、使わせてくれないか? 申し分のない素材なんだ。 今開発してる試薬をあの子に試してみたいんだよ」

「どんな薬だよ、桑野先生?!」

「詳しくは言えんが、画期的な薬さ」

「まあ、いい。 とにかく身元調査を急いでやるわ。 結果次第だが、明日は逃げだす気が起こらないように徹底的に可愛がってやるということで、、、」

「そうだな」

   ◆

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