ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第4章 翻弄16

――やっぱり、、、

 想像した通り、明菜に渡された小箱にはスパンコールが付いたショッキングピンクの紐と形容するのが相応しい上下のセットだった。

――どうしよう、、、 こんなに小さな下着じゃバストを隠せない、、、

 竜之介はトイレの便器の蓋に座り込み、小さな下着に込められた明菜の怒りの程を思い知った。

――とにかく着替えなきゃ、、、

 約束の3時が迫っていた。

 竜之介は狭いトイレの中で裸になり、ショッキングピンクの下着を身に着けた。



   ◆

 着換えを済ませ個室をでると、歩を進めるたびにフルフル揺れるバストに驚いた。

 手洗いで手をすり合わせているだけでも、不規則にバストが揺れる。

――どうしよう、、、 これじゃみんなにばれちゃう、、、

 乳首を隠すだけの面積しかないブラジャーには、乳房を支える機能がまったくないといっていい。

 廊下に誰も居ないのを確認し、大股に歩いてみるとタプン、タプンという表現が似合う程、乳房が上下に揺れた。

 心臓は息苦しいほどにバクバクしている。

――あぁぁぁ、、、 ボクは、会社の中でこんな恥ずかしい姿で平然と歩いてる、、、

 気付かれたら終わりだというスリルに魅入られたか、胸を隠さずに開発室の入口まで危うい歩みを続けた。

――ボクは何してるんだ、、、

 心細さと羞恥心に混じり、被虐のざわめきが潜んでいることを竜之介は知っている。 こんな危ないことは止めなければいけないと分っているが、どうしようも抗えなかった。

 竜之介は大きく深呼吸をし、胸が目立たないような姿勢を意識してオフィスのドアをそっと開けた。


   ◆

 自席に戻り、仕事を初めて間もなく明菜が現れた。

「速水さん。 調査表、出来てますか〜?」

「う、うん。 出来てるよ、、、」

 竜之介は背後に立つ明菜にクリップボードを手渡した。

「ありがとうございます」

 資料を手に持ったまま、明菜は立ち去ろうとしない。

――まっ、まさか、ここでチェックするなんて、、、

 『3時に確認してあげる』といった明菜の言葉が頭でリフレインする。

「ひっ!?」
 明菜が耳元に唇を寄せてきて竜之介は思わず縮みあがってしまった。

「ちゃんと着替えた?」

 明菜の囁きに、竜之介は無言で頷いた。

「給湯室で待ってるから、、、 それと着替えた下着、持ってきて」
 
 明菜はそう言い捨てて開発室を後にした。


   ◆

「もう、こんなことは許してくれよ、、、」

 朝と同じように薄暗い給湯室の奥で二人は向き合う。

「”みちる”の声で喋るのよ」

「あっ、、、 はい、、、」

「じゃ、見てあげる。 胸を拡げて」

 竜之介は背後を気にしながらボタンをはずし、胸を開いた。

「うふふっ。 いやらし〜〜っ。 でもアンタにお似合いだわ!」

 明菜は嬉しそうな声を上げ、竜之介のバストに息がかかるほど顔を近づけ、申し訳程度に乳首を覆う布地を食い入るようにじっと見つめる。

「ねえ_! 3日前より大きくなってるんじゃないの?!」

 明菜が竜之介のバストを手ですくいあげ手を離すとプルンと乳房が揺れた。

「あっ、やめて、、、」

「きゃっ! なにこれ、、、」

 薬で作られたまがいものだとバカにしていた竜之介の乳房のあまりに自然な弾力と揺れ方に明菜は目を見張った。

「もう、いいでしょ、明菜、、、 着替えさせて、、、 これじゃみんなにばれちゃうわ」

 竜之介は明菜の前でみちるの声を出すことが恥ずかしくて仕方がないのだが、思わず発する言葉自体が女言葉になってしまうのが堪らなく恥ずかしい。

「だめ〜〜っ! 絶対ダメよ。 アンタにはヌードダンサーみたいな下着が似合いなのよ!」

「そんな、、、」

「しつこいわね! 明日からは今日みたいなベージュのおばさん下着は絶対ダメよ。 変態に似合いのセクシーでいやらしい下着で通勤しなさい」

「明菜、、、 お願いだから、もう許して、、、」

「そんなにイヤラシイ下着が厭ならノーブラにしてあげましょうかっ?! それでもいいの?」

「あぁぁ、、、 ゴメン、、、 わかりました、、、」

「じゃあ、オバサン下着持ってきたんでしょ?! 後で着替えられないようにあずかっておくから」

 替えた下着が入った紙袋を明菜に手渡した。

「明日も楽しみにしてるからネ。 みんなにばれないように気をつけるのよ、みちるちゃん」

 明菜は勝ち誇ったような表情を浮かべて踵を返して、給湯室を出ていった。

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