ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第5章 カラダ7

 ―秘密の印―

「あらっ、いらっしゃい」

「こ、こんばんは、、、」

 ドアを開けた瞬間、店を間違えたのか思うほど店内のイメージが変わっていた。 以前のシックなイメージが消え、ライティングのせいかアムールは隠微な雰囲気のバーに変わっていた。

「怜奈よ。 覚えてくれてる?」

「は、はい、、、」

 見覚えのある大柄なゲイのママがカウンターの中から微笑んだ。

「遅かったな」

 カウンターのスツールに腰を掛けグラスを傾けている富岡が不機嫌そうに言った。

「ごめんなさい」

「まあ、お楽しみの前に座って一杯飲めよ」

「は、はい、、、」

 竜之介は富岡の隣に座った。

 呼び出された時から分っていた事なのに、富岡とグラスを交わした後を想像すると胸が詰まる。

「何になさいます?」

 カウンターの中から怜奈ママがしなをつくりながら竜之介に聞いた。

「あっ、え〜っと、、、 ジンベースの美味しいカクテルを」

「じゃあ、今日の貴方のイメージに合わせてピンクレディがいいかしら?! それともぉ〜、この前と同じギムレットがいい? うふっ」

 怜奈がにやりと微笑みながら言った。

 すべては3か月前、長谷川に連れてこられたこの店で、睡眠薬入りのギムレットを飲まされた時から始まったのだ。

   ◆

 竜之介は下着姿で立ちつくしていた。

「早く素っ裸にならんか」

「は、はい、、、」

 カクテルに口を付ける間もなく、竜之介はスタッフルームに連れていかれていた。

 富岡と並木、そしてカメラを構える長谷川の前で自ら服を脱いでいくのは、強引に剥がされるよりはるかに羞恥心を煽る。

 ジワジワせりあがる被虐の快感に包まれ、パンストを脱ぎブラジャーを取った。

 身体を動かすたびに長谷川のカメラのフラッシュが光り、竜之介の羞恥に赤らむ姿態をカメラに収めていく。

「ふふっ。 何をモジモジしてる?! ワクワクしてるんだろ。 ちゃんとお客さんの前でお前の期待に応えてやるから」

――あぁぁ、、、 ボクはお店の中で辱められるんだ、、、

 富岡の言葉にゾクゾクしながら竜之介は素っ裸になった。

「このまま店に連れて行きたいところだが、モデルとしても人気が出てきたようだし、今日からはOLとして働くこいつのプライバシーも考えてやらんといかんなあ。 並木。 お前の好きなように変身させてやれ」

 富岡にそう言われると並木は待ってましたとばかり、部屋の隅にあるクローゼットに駆け寄り竜之介に着せるモノを物色し始めた。

   ◆

「さあ、準備できたわ。 どう、可愛いでしょ?!」

 並木が竜之介を姿見の前に連れて行き、変身した姿を竜之介に見せた。

――あぁぁ、、、 ボクは誰、、、 とってもイヤラシイ

 鏡に映るあまりに惨めでいやらしい姿に竜之介は愕然とする。

 革製のカフで両腕は固定され、頭に被せられた赤いラテックス製の全頭マスクからは目と口が覗いている。

 ア×ルには根元がプラグの形状をした動物の尻尾のようなものが差しこまれ、12cmの黒いピンヒールで爪先立つ足元は、立っているのも覚束ないほどに頼りない。

 乳首はしこってツンと上向きに勃ち、股間のペ×スはだらりと垂れ下がっている。

 鏡の中の異形な姿は、オトコのようでありオンナのようでもあり、竜之介であってみちるなのだ。

 身体の奥底で、今から溺れる倒錯の世界に妖しく焦がれている自分がいる事を竜之介は知っていた。

「あっ!」

 並木がしゃがみ込み竜之介のペ×スを咥え、舌を這わせはじめた。

「貴方の精液、私が一番先にもらっちゃうから」

 竜之介の男の精を搾りとろうと並木が棹や陰嚢に舌を絡め、懸命に愛撫を続けるが陰茎は何の反応を示さない。

「ふふっ。 無理だよ、並木。 ホルモン投与が進むと勃たなくなるらしいぜ」

「そうなの、竜之介クン?」

 竜之介はコクリと頷いた。

「やだあ、この子、、、 もう男じゃないのね、、、」

 勃起力の減退は女性ホルモンの影響もあるだろうけど、服用前から前立腺の快感を恵理に教えられて以来、射精を伴わない絶頂を幾度も経験していたし、タックをするようになってたえずペ×スを股間に押しこんでいるからだと思っていた。

 しかし並木がため息をつきながら言った『もう男じゃないのね』という言葉には愕然とさせられた。

「並木。 怜奈に言って真空ポンプ貰ってきてくれ」

「真空ポンプ? 何するんですか?」

「いいから早く行け」

「はい」

 並木がスタッフルームを出て行った。


   ◆

「さあ、お客さんに無様な身体を見て貰おうか」

「いやぁ〜っ! お願いします! こんな恰好じゃ恥ずかし過ぎますっ」

 竜之介はフロアの端にあるポールダンスの小さなステージに連れて来られていた。

 カーテンで仕切られた小さなステージのカーテンにはフロア側から赤いライトが当たり、妖しい光の模様を描いている。

 竜之介のペ×スには透明のシリンダーが被せられ、その先端から黒いチューブが富岡の手元まで伸び、手の中にはゴム球状のポンプが握られていた。

 シリンダーの中には血液で充満したペ×スが筒いっぱいに膨張している。

「ふん。 誰が恥ずかしい?! お前は顔を隠してどこの誰でもないんだぞ。 男か女かわからないひたすらいやらしい唯の肉の塊だ」

「でっ、でも、、、」

 このシリンダーを首輪代りに客の前を散歩だ。 よく似合ってるぞ。 ほら、歩け!」

「あぁぁ、、、」

 富岡がクンとポンプを引くとペ×スが引っ張られヨロヨロと足が前に出てしまう。

「さあ、行くぞ!」

 カーテンが一気に開かれると、ホールの冷気が火照った竜之介の身体をすーっと撫でた。


   ◆

 富岡が持つペ×スに吸いつく真空ポンプに引きずられて客席をゆっくりと見せつけるように歩きだす。

 たとえ顔を隠していても頭がボーっとするほどに込み上げる羞恥心に高揚し、心臓は早鐘を打つ。

 すぐ横のBOX席の中でニューハーフっぽい女性が男に身体をまさぐられ喘ぎ声をあげていた。

「あら〜、素敵な身体ね〜。 いっしょに遊びましょうよ」

 カウンターに座っている年配の女装男が背後を通る竜之介の身体に羨ましそうな視線を向け、おねえ言葉で声をかけてきた。

「後でな、おっさん」

 富岡があしらうと、「失礼ね!」と女装男はプイっとカウンターに向き直った。

 歩くたびにア×ルに差し込まれた結構重さのある尻尾がユラユラ揺れて、腸腔にある根元が微妙に動き切ない快感を湧きあがらせてくる。

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