歯型
田蛇bTack:作

■ 1

≪第一話≫

「私の右胸には、今も消えない歯型がある」

修学旅行は二週間後まで迫っていた。憧れのJ女子学園高校に入学して以来、ずっと楽しみにしていたはずの修学旅行。
けれど、どうしてもイヤなものがある。それは、集団風呂……。

女子は、男子たちと違って、露骨に体の部位を比べたりとかはしない。
けれどもすばやい視線でほかの女生徒の体を見るのだ。

胸が発達している子、少し太っている子、足の長い子…
とにかく、お風呂からあがった時点で、一緒にはいっていた人全員の体を見切れていない人のほうがすくないんじゃないかと思う。
それぐらい、女子はほかの女子のカラダに敏感なのだ。

そんな中で、私の体に異変を感じない人なんて、いないだろう。
私は、お風呂をあがった瞬間、噂の絶好の餌食になるに決まっている。
ひそひそ、ひそひそ…。

いやだな…。

…なぜ、胸に歯型があるかって?
それは、親友にも言えない。昔、インターネットサイトでだけ少し話したことあるけれど、こんなにはっきりと一部始終を話すのは、これを見ているみなさんが最初です。

…あれは、私が小学校5年生の時でした。日付もしっかり覚えています。
9月27日。心地よい秋風の吹く夕方のことでした。
その日はなかなかバスが来なくて、通っていた水泳教室から自宅へ疲れた体をひきずって歩いていました。
途中で通るのは、高い草がぼうぼうに生えた空き地。いつも通りなれているのに、その日に限って違和感があって、やがて不気味な足跡がうしろからついてきた。

ざっ…ざっ…ざ

あまりに不気味だったので振り返りたくなかった。でも、怖い…。
おそるおそる振り返ると、その瞬間に、黒い塊が飛びかかってきた。

ザァーーッ!!
草がなぎたおされる音と一緒に、私は空を見た。
地面にたたきつけられ、痛む頭を起こし、そこに見えたのは、私の上に乗っている、超がつきそうなほどの大型犬だった。

長く赤い舌をだらりとたらし、よだれが私のお気に入りのワンピースを汚している。私は声をあげようと肺いっぱいに息を吸い込んだ。
が、叫ぶ前に、犬は私のワンピースを食い破りだした。まだブラジャーなんてものをつけていなかった私は、一瞬でパンツ一枚の状態になった。

抵抗するに抵抗できない。抵抗すれば頭を噛み砕かれそうだった。
私は声も出さず冷たい涙をとどめなく流し、されるがままにされた。

少し広げてあった無防備な足の間を犬の足が割り込む。私が全身を震わせていると、犬は私の股間に舌を這わせた。
「あう…!!!!!」
今のがなにかわからなかったが、とにかく体に電気ショックを与えられたような刺激だった。電気ショックの後はどんどん体が熱をおびはじめる。
不思議な感覚に酔ったのもつかの間、今度は脳天に雷が落ちたような痛みが走った。

…何かが入っている。熱い…痛い…苦しい。。
自分の小麦色に焼けた肌に垂れ続ける冷たい唾液。
あの時に見上げた空はにくらしいほど美しかった。

パァーン!!!

やがて響いた銃声に超大型犬は驚いたのか、私の上から消えた。
残された私の顔は泥と涙でぐちゃぐちゃになっていたと思う。
破れてしまったワンピースを懸命に体にまとわりつかせて、その日は泣く泣く家に帰った。

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