歯型
田蛇bTack:作

■ 2

≪第二話≫

「さーやーか!! 何よ、ぼけっとしちゃって」
親友の里奈の声ではたと気づいた。
そうだ、今、修学旅行の班行動の予定を決めていたんだよね。

「ハ、ハウステンボスとか行きたい…かな?」
あわてて隠したけれど、二年間ずっと一緒にいる里奈はすぐに見破ってきた。

「さては、ヒロ君のこと、考えてたなぁ!」
「ちょっと…ちがっ!!!」

ヒロ君は、中学時代の同級生。ずっと好きだったけれど、片思いのままそれぞれ違う高校に行ってしまった。
きっと私も男女共学の高校に通っていたら、今頃新しい恋をして、ヒロ君のことなんて忘れていたに違いないのだけど。

「はぁ、さやかはいいなぁ…私も恋したいなぁ…」
…ここは女子高。恋をするきっかけなんて、ほとんどないに等しかった。

「ちょっとぉ、誰? ヒロ君って…。今度の修学旅行の夜、その話、楽しみにしているからね!」
同じ班の他の友達が急に騒ぎたて、なんだか複雑な気分になった。

あぁ…。お風呂さえなければ修学旅行めっちゃ楽しみなのになぁ…。

「さやかー!」
大きなボストンバックを抱えて里奈が走ってきた。

「飛行機まで時間あるからおみやげ屋さん見ない?」
「え? 羽田で買う必要ないじゃん!」
相変わらず明るくボケている里奈に救われた。羽田のおみやげもなかなかいいものがたくさんあった。

「人形焼きなんて、東京人誰も食べないのに、なんでおみやげとして売られてるんだろうね」
「だって京都の人だって八つ橋ばっかり食べてるわけじゃないでしょ」
「うーん、そんなもんかぁ…」

「おーいさやかー、里奈―、集合時間だよー」
あっという間に飛行機は離陸した。横浜と東京が一緒に見える。雲を抜けるとそこには富士山だけがどっしりと構えていた。
さっきまでおおはしゃぎだった里奈は、すやすやねむってしまっている。私はそんな里奈とはうらはらに、眠ることなんてできやしなかった。

お風呂のことが頭から離れない。
お風呂からあがって、もし誰かが私のカラダについて耳打ちをしていたら……。

来てほしくないと切望する時間というものはすぐにやってくる。
修学旅行一日目はあっという間にお風呂の時間になった。

「さやかー、お風呂入ろうよ!」
「あ、、、え、、、」
「どうしたの?」

困った。絶対に入りたくない。
頭を一瞬でフル回転させた私は、苦し紛れな言い訳を思いついた。

「せ、生理なんだ、しかも一日目で…量もかなり多くてさ…」

こんな言い訳で、修学旅行5日間切り抜けられるはずがない。
第一、 生理の者が風呂に入る時間帯というものは一番最後に設けられている。
仮に今日はいらないことが許されたとしても、明日は…明後日は……。

「そっか、残念だなぁ…さやかのナイスバディー楽しみにしてたのに。」
まったく。里奈はハッキリものをいう。私は笑顔で頬をふくらませた。

「みた!? 佐々木さんの白い肌! 胸も丸くってさ…触らせてもらっちゃったよ」
「いやーうちのクラスの裸グランプリやったら彼女が一番だね」
「おい! おっさんか!!!」

同じ部屋の子たちが帰ってくると、予想通り、裸の品評会が始まった。
さすが女子校。胸の触りあいもアリみたい…。この子たちがもし私の右胸の歯形をみたら、きっと遠慮なく興味津々で聞いてくるだろう。
「ねぇ、その歯型、どうしたの?!」
って…。

「あぁー、気持ちよかった。さやか明日大丈夫そうなら一緒にはいろうね!」
「ったく、里奈ったらお風呂で泳ぎだすんだよ。びっくりしたぁ」

里奈が最後に帰ってきて、いよいよお楽しみの夜が始まった。

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