歯型
田蛇bTack:作

■ 3

≪第三話≫

「えーっ里奈、中学の時に彼氏いたの?」
「うん、いたよ。脳みそのなかだけだけど」
「なんだよ、ただの妄想じゃん。」

枕を寄せ合って、わくわくしながら話はどんどん濃くなっていった。

「ねぇ、ハジメテって…やっぱ痛いのかな?」
「……」
「……」

いよいよ私の苦手な話題になってきた。

「痛くない人もいるよ。私もそうだったし。」
「えー! しぃちゃん…経験者!?」
「え、あ、うん」
「中学の時?」
「まさかぁ! 夏休みだよ。この前の」
「わぁ…」

みんな、憧れているような不思議な表情でしぃちゃんを見つめた。
視線が集中して顔を赤らめたしぃちゃんはしどろもどろに続けた。

「夏休み海に行ったときにね…サーファーと…」
「その日のうちに!?」
「うん…」
「きゃー! やるぅー!」
「ム、ムードがよかったんだってば…ちょっと後悔してるよ。」

「みんな、いつごろハジメテを経験するんだろう…」
「私、中学までは17歳って決めてたけど、いざ17になってみると…ねぇ…。」
「県立行った友達が、クラスの半分ぐらいがもう経験してるとか言ってた」
「まじで…?」

…この話題が終わらない限り開けない。私の背中は冷や汗でじんわりしめってきていた。
私の処女は、犬に奪われたなんて、口が裂けても言えやしない。死んでも隠し通すつもりだ。

「で、処女膜って、ホントに処女にしかないの?」
「…そ、そうらしいね。私、サーファーにアソコ見られて処女だって判断されたし…」

しぃちゃんが経験者らしく言った。みんなのまなざしは更にしぃちゃんに集まりそして自分らをみつめた。

「キャー! じゃあうちらはまだ膜張ってるんだね!」
「そぉいえばしぃちゃん、最近腰が丸くなった気がする」


「「処女膜」」
私にはもうないんだ…。それも、犬に破かれたなんて……。
いやでもまたあの日を思い出してしまった。

「さやか!! どうしたの、その格好!!」
母は私の異様な姿に一瞬ですべてをさとったらしい。体を洗おうとする私の手を引いて、そのまま警察署へ向かった。

「いつ、どこで、なにがあったの?」
「さっき、夕方公園で、犬に襲われました」
「どこを、どういう風に、襲われたの?」
「……」

警察はいやらしいほどコトの詳細を聞いてくる。話したくないことも…遠慮なしに。
私は股間を舐められたこと、ペ●スを入れられたことについていやいやながらも話した。
その後病院に連れて行かれ血液を抜かれ、まだひりひりと痛むアソコを消毒された。

警察に言いたくないことを言ったこと。パンツを脱いで恥ずかしいところを消毒されたこと。それらはとてもつらいことだったけれど、何よりそれからしばらくの間、母が私をあわれみの目でみつめ、ハァっと深いため息をつくことが辛かった。

「ごめん、もう寝るね。」
私は修学旅行の話題もそこそこに、さっさと布団にもぐった。
寝付けないのは当然だった。まだ会話が聞こえてくる。

「私、お婿さんになる人にバージンをあげたいなぁ…」
「うー、私ははやくエッチしてみたいな…」
「ねぇ、男の人のアレって大きくなるとどんぐらいになるの?」
「やだー! それはイタイ! 絶対そんなものはいらないよ」
「でも同じ道から赤ちゃんが生まれるなら、慣れる必要はあるんじゃないのかなぁ…」

それからセックスの話題から逸れて、出産の話になったところまでは覚えているけれど、いつの間にか私はねむっていたらしい。

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