光梨の奇妙な日常
煙突掃除屋さん:作
■ PM12:30 昼休み1
PM12:30 昼休み
「だ〜〜! 終わった〜〜!」
チャイムが鳴る。4時間目の授業が終了すると同時に光梨は机に突っ伏した。大きく手を広げて伸びをすると椅子に座ったまま身体を左右に捻る。
「もぅ、ダメじゃない。欠伸ばっかりしてちゃ。」
斜め後ろの席の岸本美咲が笑いながら光梨の頭を小突いた。
「だぁ〜って 眠いんだもん。」
光梨は机の脇に掛けてあるスポーツバッグから弁当の包みを取り出すと、昼休みで主のいなくなった隣の席を自分の机とくっ付けた。美咲がパンとコーラのボトルを持ってその席に移動してくる。
「だからって先生が横にいるときに大欠伸しちゃダメ!」
美咲は笑いながら光梨を窘める。
岸本美咲は俗に言う優等生である。かといって勉強ばかりしている訳でなく、物静かながら聡明な性格で誰からも好かれていた。その容姿も手伝って校内の人気は高く、生徒会の役員を務めている。
「四時間目に古典の授業なんて催眠術よりタチ悪いよね〜。」
光梨は小さな包みを広げ始める。
「昨夜は従兄弟さんが眠らせてくれなかったの?」
悪戯っぽく笑いながら美咲が光梨の顔を覗き込んだ。光梨の頬がカーッと染まる。
美咲は何度か駿介と顔を合わせていた。初めはただの同居人と思っていたのだが、事あるごとに光梨の口から駿介の名前が出てこれば気もつくというものだ。
「そ、そんなんじゃないよ。」
光梨は少し俯いて答える。駿介に抱かれた所為で眠いのならどんなに良いだろうと瞬間的に考えてしまった自分が恥ずかしかったのだ。
「ふ〜ん」
それ以上何も突っ込まずに美咲はコーラを口にした。美咲にしても光梨がそれほどまで熱を上げる駿介が気になってしまう。男勝りのサッパリした性格である光梨が彼の名を聞いた途端にしおらしく、可愛い女の子の顔になる。その上、恐れにも似た表情を浮かべて頬を染めるのは何か訳があるに違いないのだ。
「美咲はどうなのよ? 彼氏とは上手くいってんの?」
光梨は話の流れを変えるべく美咲に問い質した。数週間前に違うクラスの男子生徒に告白された美咲がOKの返事を出した事も本人から聞いている。
「あぁ あの男? 別れちゃったよ、とっくに」
「え?」
美咲があまりに素っ気無く言うので少々呆気に取られてしまった。
「ヤル事しか頭にないんだもん。馬鹿にしてるよ。2人で話してる時もずっと私の胸を見てるんだよ? 信じられる?」
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