拾った女
横尾茂明:作

■ 事の成り行き1

その美しくたおやかな女は……路傍に落ちていた…と表現すべきだろうか。

事の成り行きはこうである…。
深夜3時を少し回っていたと思う、俺はいつも行く渋谷外れの洒落たスコッチバーで呑み…2時過ぎにブラブラと駅まで酔覚ましに歩いた…。

途中、立体パーキングに車を停めていたことを思い出す…。
(気付くまでずいぶん歩いちまったなー)
(こんな時間…終電も無いのに…ったく俺は何で駅に向かってんだ…)

(しかし…最近は電車に乗ることも無くなったな…独立してもう10年か)

(酔ってるし…このままタクシーを拾って帰るか、しかし待てよ…ということは明日また車を取りにここまで来なくちゃならんってことだよなー)
(ホテルも金曜の夜じゃぁ…一杯だし…まいったなー)

(…酔いも幾分醒めたことだ…車で帰るか…)
(しかし…こんな時に限って検問やってんだよなー)
(まっ、そん時は運が無かったとあきらめるか…)

この想いが酔っている証拠ではあるが…。
その日はなるようになると大胆にも車を引き出してしまった…。

車が日野市に入った辺りで幾分酔いも醒め、少し冷静になってきた。
そこで俺は検問の掛かりそうな幹線道路を避けて間道を抜けることにした…。
辺りは急に暗くなる…この界隈は一昔前は殆どが畑であったはずが…今では民家がひしめいていた…。

(こんなに民家が多いのに街灯が少ない…宅地の急増に市も間に合わないのかな…)

とりとめなくそんなことを考えながら前方をボーッと見ていたとき…路上に黒い物が置いてあるのに気づく…。

俺は慌ててブレーキを踏む…(ったく…道の真ん中だというのに一体何なんだ…)

ハンドルを左に切り、黒い物体の横をすり抜けようと進めたが…途中で無理と感じた…。
(まったくついてないぜ…しかたねー、かたすとすっか)

ライトを消しチェンジをPに入れてドアを開けた…(うぅぅ寒い…)
晩秋のためか外はめっきり冷えていた…。

(やってられん…ったく…しかしどうしてこうも寒いんだ…)

その黒い物体に近づく…数メートルまで寄ったとき俺はギョッとした。
(うぇぇー…人だぜー…こりゃ何なんだ)

(酔っぱらいか…それとも…まさかひき逃げなんてのはいやだぜ…)

俺は恐る恐るその黒い物体に近づき…そっと脚で蹴ってみた…。
「ぅうん…」

呻きとも取れるその声音は若い女のものだった…。

俺は急に興味がわき…肩とおぼしきところを掴み、表に引っ繰りかえしてみる。
暗くてよく分からぬが…夜目にもその女の肌の白さは光って見えた…。

その顔をよく見ようとしゃがみ込む…(ゲッ…こりゃ血じゃねーのか…)
女の顔の半分近くが黒く濡れて光っていた…。

(ヤバ…こりゃひき逃げだぜ…)

俺は急に怖くなった…この状況は余りにもマズイ…。
(こんなとこ人に見られたら俺が犯人にされちまうぜ…)
(こりゃ逃げた方がよさそうだな…)

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