拾った女
横尾茂明:作

■ 事の成り行き2

辺りを見回したが幸い人気はなかった…。
俺はその女の肩の下から両手を入れ、車が通れる分だけ横に引きずろうと力を入れた
その時、女が大きく呻く…。

「あぁぁぁ……痛い…肩が痛いの…」

俺は慌てて手を放し…女の顔をのぞき込む…。
「オイ! …気づいたのか、お前…一体どうしたんだよ」

「……………………」

「何処か痛いのか…?」

「……………………」

「黙ってちゃ…わからんだろう!」俺はつい女に向かって大声を出してしまった。

「ぅぅぅぅ……ご…ゴメンナサイ…思い出せないの…ぁぁぁ痛い…」

「何処が痛いんだ…」

「あぁぁぁ分かんない…体中が痛いの…」

(病院は…マズイよなー…まだ酒は抜けてないし…警察がくればアウトだぜー…)
(クソーやってられねーな…どうしようか…)

(よし…)
(このまま知らんぷり決め込んで立ち去ろう…)
(しかしこの寒空…このまま朝まで誰も通り掛からなかったら…この女凍え死ぬかも…)

(………どうしたものか………)

その時、女は起きあがろうと藻掻いて…崩れた…。

(おっ…意外としっかりしてるじゃないの)
(この分ならどうにか歩いて…何処かの民家まで行けるだろう…)

「おい…悪いが俺は先を急ぐから…もう行くわ」
「…………………………」
「ぁぁぁぁ…助けて下さい、行かないで…」

「おいおい…そんなこと言われてもなー…」

「車に乗せて下さい…」
女の声音はだいぶしっかりとしてきた、そして俺の手に縋りながらも何とか立ち上がった…。

「こんな寒いところに置いていかないで…下さい」

「ったく…しょうがねーな…」
「乗れや、何処かの病院の前まで送ってやるよ」

「あ…ありがとう御座います…」

俺は女の腋に手をまわし…その体を支えるようにして車に向かう…。

(おっ、この女…いい匂いしてやがる…)
(おっと…手が乳に当たってた…しかし…何て柔らかい体なんだろう…)
(そー言や…何ヶ月女を抱いていねーんだろうなー…)

(今年の初めだったか…女房の野郎…本当に出て行きやがった…)

俺は女を助手席に座らせ…ハンドルを握りながら久々に女房の事を考えていた…。
(ちょっと浮気をしたぐれーで…離婚はねーんじゃないの…)
(そーいや…あの女…潔癖な女だったよなー…)
(あん時も…SMじみたこと仕掛けたら…俺を変態呼ばわりしやがって…)
(フン…俺もせいせいしたぜ…あんなブス…)

ふと気づくと女が肩に寄り掛かっていた…。
(おいおい冗談じゃねーぞ…このスーツはアルマーニだぜ…)
女の頭をウインド側に押し付け、肩に手を当ててみた…(あぁぁ血で濡れてるぜ…)

「おい! 寝るんじゃねーよ」
女の肩を押すが…女はムニャムニャと訳の分からないことを呟きまた眠ってしまう…。

(おっと…病院が有った…)
(しかし…どうしたものか…)
(このまま放り出したいとこだが…こんなによく寝てちゃーなー)

(病院の中まで抱いていくか…)
(しかし…看護士に警察でも呼ばれたら…マズイよなー)

(ったく…どうしてこうもついてないんだろう…はーっ…タクシーにすりゃ良かった…)

(…よし!)
(病院に連れてくのは明日の朝にしよう…アルコールも抜けてるだろうしな)
(なーに…女も惚けてるし…朝拾ったことにすりゃ…分かりゃしねー)

俺は病院前でハンドルを切り、大きくターンをして家の方向に向かった。

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